第19話 一悶着

 やっぱり止められるか。


 「あんたのお仲間達、奴隷狩りの連中なら皆殺しにしましたよ。此れからコーエン侯爵様の所に行くが、黙って通すのなら死なずに済むが、邪魔するなら怪我だけじゃ済まないぞ」


 「貴様ぁー、胡乱な奴だな。馬車から降りろ!」


 血相を変えて、手槍を構えて近づいて来る衛兵の腹にアイスバレットを叩き込み、足にアイスアローを射ち込んでやる。


 「今から冒険者ギルドに寄ってからコーエン侯爵様の所に行く。文句があるならついてこい!」


 女冒険者を促して馬車を進ませながら、三人の衛兵を吹き飛ばして足にアイスアローを突き立てる。

 それを見た他の衛兵達の腰が引けている。

 捕らえられていた者達を手招きして馬車の横を歩かせ、冒険者ギルドに向かう。

 その後ろをへっぴり腰の衛兵と、騒ぎを見た冒険者達がついてくる。

 冒険者達に声を掛けて「ギルマスを呼び出してくれたら銀貨をはずむぞ」と言うと、三人ほどが〈任せろ!〉と言って走り出した。


 冒険者ギルドの前は野次馬の冒険者で溢れていて、ギルマスが俺の顔を見て呆れ顔だ。


 「今度は奴隷狩りの連中を捕まえたって」


 「馬車の横にいる者達が、捕まっていた人達だ」


 御者席の女冒険者とエルフの男も降ろし、ギルマスに捕らえられていた8人を引き渡す。


 「費用は俺が全て持つから暫く8人を預かっていてくれ。賊は侯爵様の所に運ぶから」


 「衛兵に引き渡せ!」


 「駄目だね、衛兵にも仲間がいるんだよ。それと闇奴隷を売買していた奴隷商を逃がしたくないので、サラセン商会を封鎖したいのだが良い方法は有るかな」


 「賊と被害者の8人は預かってやる、ギルドの馬車で侯爵殿の所に行って説明しろ。サラセン商会は冒険者を使って封鎖しておいてやるが、精々一晩だぞ」


 馬車の中の賊をギルマスに引き渡して、冒険者ギルドの二輪馬車に乗せられて侯爵邸に向かった。

 侯爵邸では以前何度か来た事が有るので直ぐに通用門を通されて、執事のヘイルに取り次いで貰えた。


 「ハルト殿、奴隷狩りの男達を捕らえて被害者を救出したとか、侯爵様がお待ちですので詳しい説明をお願いします」


 そう言われて、直ぐにコーエン侯爵様の執務室に案内された。

 簡単な挨拶の後、森での出来事を伝えて現在冒険者ギルドに賊10名と被害者8名を預かって貰っている事。

 ギルマスが冒険者を使ってサラセン商会を封鎖しているが、精々明日の朝までが限界だと伝える。


 「サラセン商会が違法奴隷の売買に関与している事は、森で捕らえた賊を尋問して証言を得ています」


 そう伝え賊から取り上げたマジックポーチとお財布ポーチ4個を差し出した。


 「判った、配下の者をサラセン商会に向かわせよう。衛兵で馬車の通行を阻害した者も拘束させる。冒険者ギルドに預けている賊の取り調べもギルマスに協力して貰い直ぐに始めよう。ハルトにはサラセン商会への案内を頼む」


 其れだけを言うと、ヘイルに騎士団を呼び出せと命じていた。


 呼び出された侯爵家の騎士団員50名、30名にサラセン商会捜索を命じると、20名に冒険者ギルドに預けられた賊の尋問を命じる。

 サラセン商会捜索に当たる30名の隊長ゼーファに、俺と連携して捜索しろと命じている。


 「侯爵様、私も捜索に加わるのですか? 臣下では在りませんので、通報すればお役御免だと思いますが」


 「魔法使いが居れば厄介だ、ハルトの魔法の手助けを頼みたい」


 乗りかかった船だし、サラセンにはお肉の事をはっきりさせたいので渋々頷き、ゼーファと共にサラセン商会に向かう事になった。


 サラセン商会の前は冒険者が多数ひしめき、商会の者と出せ出さないで騒然としていた。

 しかし、冒険者の数が多いので、武力衝突をすれば負けると判っているサラセン商会の者は、騒ぐだけで何も出来なかった。

 そこへコーエン侯爵様配下の騎士団が到着すると、サラセン商会の者達は建物の中に入り立て籠もってしまった。


 騎士団の呼びかけにも応じず、ドアも頑丈な物で閂を掛けているので幾ら叩いても壊れない。

 さっさと終わらせて休みたいので、隊長のゼーファに俺がドアを開けるから騎士達をドアから下げてくれと言う。


 「このドアを破れるのか」


 「出来ますが、部下の方々を下がらせて貰わないと怪我をしますよ」


 そう伝えると半信半疑ながらも部下の騎士達をドアの前から下がらせた。

 裏通りとはいえ馬車道の反対側まで下がり、無詠唱は不味いので口内で〈ダルマさんが転んで、屁をこいたら臭かった〉と呟いてバレーボール大のアイスバレットをドアに射ち込む。


 〈バキーン〉固い木が割れる音がして穴が開く。

 連続攻撃は見せたく無いのでアイスバレットを射ち出すたびに口内で〈ダルマさんが転んで、屁をこいたら臭かった〉と呟きながら、間隔を開けてドアに射ち込み7発でドアを粉砕する。

 後は騎士団の仕事なのでゼーファに頷くと、待機していた騎士達が建物に雪崩れ込んで行く。


 ギルマスがやって来て、賊はお前一人で捕まえたのかと聞いてくる。


 「そんな気は無かったんですが、いきなり矢を射ち込まれて売り物にすると言われたので、反撃しただけですよ」


 「しかし、お前の氷結魔法は相当な物だな。アーマーバッファロー討伐で大したものだと思っていたが、想像以上だ」


 壊れたドアを見ながらそう言っている。


 「ところで此れほどの冒険者を駆り出すと費用は誰が払うんですか」


 「ただ働きだな、奴等は騒ぎを楽しんでいるだけだ。それよりお前は賊10人を捕らえたので一人頭金貨2枚が支払われるぞ」


 「じゃー出張っている奴等の名前を控えておいて下さい。後ほど俺から彼等に一杯奢り手間賃を払いますよ」


 そんな話をしていると、建物内から後ろ手に縛られた男達が続々と出てきた。

 抵抗したのだろう怪我をしている者も多数見られ、中には上等な衣服に身を包んだ男もいる。

 ゼーファのところに行き、俺の役目は終わってので帰らせて貰うと告げてギルマスと共に帰る事にした。


 ギルドに帰ると後日では遅いと思ってギルマスに頼み、手伝って貰った冒険者達に一人銀貨一枚を手間賃として渡して貰った。


 「ハルト、今度は何をやったの」


 「あれっ、ハインツ居たんだ」


 「ヤハン達も居たぞ、こんな騒ぎは見逃せないからな。それに騒いだだけで銀貨一枚貰ったぜ」


 「ハルト、相変わらず魔法が冴えてるね」


 「ヤハンも、騒ぎを楽しんでいた様だね」


 「ハルトの行くところ騒ぎ有りってね。で、今度は何をやったの? 話してよ」


 街に戻る途中、森の近くで囚人護送用に似た馬車を見つけた事。

 それを見ていて肩に矢を受け倒れたら、やって来た男達が売り物にすると言っていたので、奴隷狩りの連中だと気づいたと話す。


 「馬鹿だねー、ハルト相手によくやるよ」


 「そそ、俺なら相手がハルトだと判ったら即行で逃げるね」

 「然しよく捕まえたね。何人捕まえたの」

 「確か10人前後居たよな」

 「えーと、賊一人捕らえたら確か金貨2枚だろう」

 

 「てことは金貨20枚の稼ぎかよー、手伝ったのだから少し奢れよ」


 「だから騒ぎ賃として、一人銀貨一枚を渡しただろう。普通は馬鹿騒ぎのただ働きだぞ」


 「えっ、あれってハルトが出したの」


 「稼ぎを手伝って貰ったからな」


 馬鹿話に花が咲き獲物を売る事も出来ずに、その日は月夜の亭に泊まる。

 翌朝朝食を食べていると、以前俺に即刻侯爵邸に出頭せよと喚いた男がやって来た。

 朝から見たくも無い奴の顔を見て、不機嫌になる俺の前に来て腰を折る。


 「ハルト殿、コーエン侯爵様が、サラセン商会の事でお越し願いたいと仰せです」


 あららら、今日はやけに丁寧だねー。

 女将さんが以前の遣り取りを覚えているので、心配気に見ている。

 サラセン商会の事は丸投げしているので無視する訳にもいかず、迎えの男に従って侯爵邸に行く。

待たされる事も無く侯爵様の執務室に行くと、ギルマスも来ていた。


 「ハルト、良くやってくれた。何かと悪い噂を聞いていたが、証拠を押さえられなくて手子摺っていたんだ。まさか衛兵達もグルだなんて思ってもいなかったからな」


 「冒険者でサラセン達に協力していた奴等も捕らえた。逃げた奴等は手配したので、もう冒険者は続けられないな」


 侯爵様が合図すると、執事のヘイルがトレーに乗せた報奨金の革袋を差し出してきたが、マジックポーチとお財布ポーチ4個も乗っている。


 「此れは」


 「それらの持ち主は既に殺されて身元も確認出来ない。だから捕らえた者の所有物になるんだ。中の物も全て君の物だ、使用者登録は外されているので後で確かめるとよい」


 ギルマスがそう説明してくれた。


 「未だ早い話だが、ハルトがこの街で冒険者を引退するのなら何時でも言ってくれ。住まいと満足のいく報酬を約束しよう」


 侯爵様の有り難いお言葉だが、俺は冒険者になって未だ2年も経ってないので、当分冒険者を辞める気は無いと返事をしておく。


 「君は現在シルバーランクだそうだが、指名依頼を受ける気は在るのかな」


 「内容にも依ります」


 「実は君から買い上げたアーマーバッファローを、国王陛下に献上したのだ。顎下からの一撃で倒しているのを見て、君の実力を見てみたいと陛下が仰せでね。君は冒険者だ、国王陛下と謂えども呼びつける訳にはいかない。そこで私が君に依頼をして、王家の魔法部隊の者や他の貴族達お抱えの者達と、腕比べをして欲しいのだが可能かね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る