第18話 奴隷狩り
立ち止まると又人の気配が近づいて来るが、今度は慎重に近づいてくる。
高さ2m直径1mの筒状の防壁を作り中に閉じこもって矢の飛来方向を観察して一人を見つけた。
木の幹の陰から覗いているが、距離にして35m程度は念じて凍らせる事は出来ると思うが、隠れている木の幹ごとアイスランスの五連射で撃ち抜く。
その間に飛んできた矢の飛来方向は木の葉が茂り姿が見えないのでアイスランスを飛来方向に乱射する。
五連射を三度続けると木の枝から落ちた様で、派手な音を立てて地面に叩きつけられた音がする。
同時に草叢から男が飛び出してきて、大剣を氷の防壁に叩きつけてきたが弾かれている。
ばーかそんなに柔な防壁なんて作らねえよ、などと考えながら両足にアイスアローを突き立てる。
後は敵が潜むと思われる場所に、アイスアローを連続して打ち込んで行く。
〈待ってくれ! 参った、止めてくれ悪かった〉
「立ち上がって此方に来い! 剣は下向きにして持ち腕を水平にしてだ」
一人は立ち上がったが、未だ左右に五つの気配がする。
出て来ないなら殺す迄だ、息を潜めてこちらの様子を窺っている様だが大体の場所は判っている。
右の気配に五連射を三回、左にもと思った所で脱兎の如く逃げ出したが決断が遅い。
背中にアイスアローを五本突き立ててあの世に送ってやると、慌てて武器を捨て立ち上がった奴が三人居る。
ちっくしょう痛ってぇなぁー。
油断していた代償とはいえ痛む、ポーションも即行で効かないんだな。
アイスランスの乱射で大分魔力が少なくなった様なので、ハイゴブリンの刺身で魔力補給をしておく。
熱暴走を魔力放出で押さえながら、剣を片手に出てきた男を睨み付ける。
俺が魔力放出中で苦しい顔をしているのを見て、助かると思ったのかニヤニヤしながら近づいて来た。
下向きに片手で持った剣も普通に持ち替えて、何時でも攻撃出来る体勢になっている。
しかし、俺が氷の防壁に守られているので攻撃出来ずに思案中の様だ。
魔力放出の為に魔力を循環させ魔力調節を終わらせて立ち上がると、慌てて剣を防壁に叩きつけてきた。
それでも氷の壁を挟んで俺が魔法攻撃が出来ないと思っているのか、二度三度防壁に剣を叩きつける。
それを見ながら太股と肩にアイスアローを一発ずつ射ち込むと、驚愕の表情で倒れ込んだ。
馬鹿め、俺の魔法は念じれば防壁を通してだって撃てるんだよ。
周囲を見回して他にも潜んで入る奴が居ないかを慎重に観察して、安全を確かめてから防壁の魔力を抜く。
一瞬にして氷の防壁が水となって崩れ落ちる。
魔力を込めて作り存在しているのなら、その存在の魔力を抜けば無くなると気づいたのは夜の華に乗り込む少し前のことだ。
極めて簡単な事だが気づくのに時間が掛かったのは、魔法の事を他人に聞く事が出来ない独学の為と自分に言い訳している。
倒れている奴の剣を拾い上げてマジックポーチに入れ、問題の馬車に慎重に近づくが誰も居ない。
怪我をさせて放置している奴等の所に行き、武装解除をして縛り上げてから馬車の周囲に集める。
最初にアイスニードルを射ち込んだ奴等は、這って逃げようとしたり遠くに行けずに草叢に隠れていた。
武装解除してからアイスニードルの魔力を抜き、馬車の方へ行けと命令する。
足が痛くて歩けないと聞き分けの悪い奴の、顔面すれすれにアイスランスを撃ち込み嫌なら死ぬかと笑って聞けば、全員必死の形相で歩き始めた。
合計十人、木の幹を撃ち抜いた奴は即死、木から落ちた弓使いは重傷なので放置する。
手足を縛り転がしている奴等の尋問をする前に馬車を確認すると、猿轡をされ縛られた男女が転がされている。
皆怯えた表情で俺を見ているが、取り敢えずは放置して尋問を開始する。
奴等を縛っていて気づいたが、肩の痛みが消えていたのでポーションが効いてきた様だ。
最初の六人のうち、一番装備の良い奴から尋問を始める。
「さてと、『此奴も序でにかっさらって行くか』とか『男は大して金にならないからなぁ』と言ってたよな。馬車の中を見ればお前達の商売も判っているが、何処に行くつもりだったんだ」
「お前中々の魔法使いだな。俺達の仲間にならないか、金も女も好き放題だぜ」
「俺は質問しているんだが、仲間になる様に見えるか」
「見逃してくれたら金貨十枚を払うぜ。ちんけな冒険者でちまちま稼ぐより手っ取り早いし金になるぞ」
腰のマジックポーチをポンポンと叩いて見せる。
俺を勧誘している男の服からマジックポーチが覗いている。
顔を蹴りつけ倒れた男の腰からマジックポーチを取り上げるが、当然使用者登録をしていて中に何が入っているか判らない。
鼻血を出しながら起き上がった男が凄い形相で睨んでくる。
他の奴等の腰を調べると四人がお財布ポーチ持ちだ、どうせ拐かすか殺した奴のを取り上げたのだろう。
持ち主の特徴を記してから、俺のお財布ポーチに移動させる。
「さっきの質問に答える気が無いとみたが、痛い思いをしたいのか?」
「野郎覚悟は出来ているんだろうな」
「俺の事は気にするな。それより此れから痛い目に合う覚悟は出来てるよな」
そう言って凄む男の鼻先に、生活魔法のフレイムを浮かべてやる。
〈フン〉と鼻で笑った奴の背後から、時計回りに12個のフレイムを胸の高さに浮かべる。
ちょっとした煮炊きが出来る程度の魔力を込めているので、概ね五分程度はそのまま燃えているだろう。
テニスボール程の炎に囲まれて、びっくりしているが驚くのは此れからだ。
腰の高さにもう12個の炎が現れると、驚くと同時に額から汗が流れ出す。
そうして奴の目の前に浮かぶ炎の隣から、奴の頭の周りに12個の炎が浮かんだ時に何が起きるのかを理解した様だ。
「お前は氷結魔法だけじゃなく、火魔法も使えるのか」
「臭い男の丸焼きだって作れるぞ、タレはないけどな。喋りたくなったら早めに言え、手遅れになっても知らないぞ」
そう言って、奴の目の前に浮かぶ炎に魔力を追加して赤色からオレンジ色になる様に魔力を込めて火力を上げてやる。
胸の高さの炎も同じように魔力を込めて温度を上げる。
確か赤色の炎で約900度、オレンジ色で1,100度、淡い黄色だと1,300度位だったかな。
ネットの情報を思い出しながら、段々熱くなってきたのか大量に汗を流す男の頭に炎を乗せてやる。
〈ウワァッー〉頭に火が点き慌てた男が動いた為に、背後の炎に背が当たり後ろから煙が上がり始める。
「オイオイ、背中が燃えているぞ」
「喋る! 喋るから消してくれ! 頼む何でも喋るから」
「じゃ、馬車の中の者を何処に連れて行くつもりだったんだ」
「ヘイエルだ、ヘイエルの街に引き取り手が居るんだ」
相当熱いのか、大汗を流しながら答える男の目の焦点が怪しくなっているので、魔力を抜いて全ての炎を消す。
「引き取り手の名前は?」
言い淀むが、多分サラセン商会だろう。
奴の目の前に再び炎を浮かべてやると、観念したのか喋りだした。
「ヘイエルのクラクフ通りの一つ裏通りに在る、サラセン商会だ」
「ふむ、するとお前はザンドの仲間って事か」
「何故ザンドを・・・まっ、まさかお前はハルト・・・か」
「ヘイエルの街で門番に馬車の中を見られたら、どうするつもりだ。此れじゃ絶対に捕まるぞ。どうやって通過する」
「今日の門衛の隊長と数人は、サラセンの息が掛かっている。俺達の馬車は何時も奴等が調べる事になっている」
「何人で此処に来た、殺した奴が三人にお前達が十人」
奴の目が一瞬考える様に泳いで、15人で来たと話す。
成る程ね、逃げた奴が知らせに走ったので、助けが来ると思っているのか。
馬車の扉を開けて、再度中を確認する。
虎人、男、成人前後
虎人、少女、12~13才くらい
人族、女、冒険者らしい。
人族、少女、14~15才くらい
狼人、男、成人
エルフ、男、青年
エルフ、少年、年齢不明
ドワーフ、女、成人
「お前達を捕らえた奴等は拘束した。然し勝手な事をされると不味いので、取り敢えず猿轡だけ外してやるから騒ぐなよ」
猿轡を外したあとで奴等に恨みが在るだろうが、傷付けるなら俺がお前達を殺す事になると警告してから戒めを解く。
馬車が扱えるかの問いに、人族の女冒険者とエルフの男が扱えると言った。
状況を教えて、ヘイエルの街に向かうが街の衛兵と奴隷商が結託しているので、少々荒事になると説明する。
ヘイエルの領主は面識が有り、捕らえた奴等と奴隷商を引き渡すつもりだが、荒事になったら街の中に逃げ込んで冒険者ギルドに駆け込めと言っておく。
冒険者ギルドでギルマスに事情を話せば、領主様に伝えて何とかしてくれる筈だと教える。
賊の財布は全て取り上げ助けた者達に与えているので、冒険者ギルドに行かなくても飯くらいは食えるだろう。
女冒険者とエルフに馬車の扱いを任せて、馬車の後ろに数珠繋ぎにした賊を引き連れてヘイエルに向かう。
ヘイエルに向かう途中で備蓄の食料を与えて腹拵えをさせ、街が見えたら馬車に賊を詰め込んで皆には歩いて貰うと説明する。
衛兵に賊を開放されたら面倒になるし、あんた達も馬車に乗ったままだと逃げられないからと説明しておく。
街の入場に際し賊の言葉通り、貴族専用の通路に馬車を乗り入れるが咎める衛兵がいない。
「待て、待てまて! 何時もの奴等はどうした。見た事が無い奴だな。馬車を停めろ!」
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