第17話 油断
ヘイエルの冒険者ギルドは今日も平穏、と思ったが、俺が入って行くと静まりかえった。
買い取りカウンターが混み合っているので暫く待つ事にして、エールでも飲むかと食道に行くと、ヤハンが軽く手を上げている。
エールとつまみの串焼きの皿を持ち、ヤハンのテーブルに向かう。
「ハルト、何をやったの」
「ん、何の事だ」
「昨日の夜、夜の華にハルトが殴り込んだって凄い噂になってるよ」
「ああ、確かに夜の華には行ったけど、目的の奴にお別れの挨拶しにに行っただけだよ。殴り込むって大袈裟な」
「でも、ハルトがお別れを言ったザンドって男が、その場で死んだって皆言ってるよ。娼館だからハルトの顔を知っている冒険者もいた様だし」
「俺はザンドと離れていて、何もしてないけどな。夜の華に入って直ぐの所に居たし、ザンドは部屋の反対側に居たからな」
「ハルトに睨まれたら呪い殺されるって、夜の華の娼婦や用心棒達が震え上がっているらしいよ」
「多少魔法は使えるが、人を呪い殺す魔法なんて聞いた事が無いけどなぁ」
「俺も初めて聞く話しだし、でも見ていた冒険者が吹き歩いているので、気を付けなよ」
「んじゃ、そいつを恨んでみるか。死んだら面白いだろうな」
そう言ったら少し離れた場所で飲んでいた冒険者グループが〈ガタン〉と椅子音高く立ち上がり、青い顔をして慌ててギルドから出て行った。
ヤハン達がクスクス笑っているところをみると、俺の噂を流していた奴等らしい。
「で、何の用事で娼館なんかに行ったの。ハルトって龍人族の先祖返りって話しだろ、発情期には未だ早いと思うけど」
〈ブーッ〉って思いっきり噴いてしまったね。
「えっ、そうなの〉
「龍人族ってどれ位の寿命なの?」
「俺って孤人族だろう、俺達は平均140年くらいだけど・・・ 」
「良いなー、俺って人族だから80年位が寿命だってきいた」
「えっ人族だって、120を越えた爺さんが俺の村に居たぞ」
「ハルト、汚いよー」
「悪い一杯奢るよ。ところで龍人族の寿命ってどれ位なんだ?」
「聞いた話だと180位だったかな。でもどの種族も、魔力の多い者は長生きらしいよ」
元々の魔力が10なのに、ゴブリンの心臓を食って魔力が増えている俺って、どうなるのかな。
「ところで、ゴブリンが増えている場所って聞いた事無い?」
「おっ、得意のゴブリン狩りでもやるの」
「ゴブリンキラーの本領発揮かい、ハルト」
「ハインツ、その呼び名は止せよ」
「草原や森の浅い所になら、何処にでも居るからなぁ。エミナ村の様な場所は特にな。あそこも森の奥には余り居なかっただろう」
「ああ、そうだったな」
「森の奥に行けば、ゴブリンなんて野獣や魔物の餌になっちまうからな。代わりにハイゴブリンが多くなるけどな」
「ふうーん」
気のない返事をして人の少なくなった買い取りカウンターに行き、薬草や魔石を売りに出した。
今回は訓練を重点的にして、殆ど薬草採取もゴブリン狩りもしなかったので総額で57,300ダーラと少なかった。
しかし、金色の牙に渡したアーマーバッファローが、オークションで金貨152枚で売れたとの事。
俺のお肉のオークション価格は、平均金貨8枚で売れたので金貨56枚、侯爵様の分は二割増しに色を付けて金貨70枚を貰った
合計金貨126枚に魔石や皮等諸々を含めて代金は総額金貨164枚、小さい方との比較でも結構良い値で売れた。
俺の取り分と、金色の牙の分を合わせて2で割れば金貨158枚、これに二割増し計算で金貨189枚と銀貨6枚になる。
一番大きなアーマーバッファローを引き取った侯爵様からは、金貨200枚が俺達に支払われた。
金色の風のホランが、小さい方で稼がせて貰ったからと50枚で良いといい仲間も頷いて了承した。
それでもホラン達金色の風は金貨202枚を受け取り、一人平均33枚の金貨を手に入れてほくほく顔である。
俺はギルドの預け入れが3011万ダーラ、金貨301枚になったのでマジックポーチが買えるかも知れないと思いほくほくだ。
マジックポーチが有れば、野獣や魔物を討伐して持ち帰れるので稼ぎが格段に跳ね上がる事になる。
モーラさんの所に行って、マジックポーチの種類とお値段を確認しておこう。
夕方モーラ商会に行き、金貨300枚で買えるマジックポーチについて聞いてみた。
モーラさんは俺が来ていると店員からの知らせを受けて、店に出てきて対応してくれた。
「聞きましたよアーマーバッファロー三頭も討伐されたのですね。お目出度う御座います」
「有り難う御座います。今日ギルドでオークションの代金を受け取り、預け入れ分と合わせて金貨300枚になりました。300枚でどの程度のマジックポーチが買えますか」
モーラさんの説明では、金貨300枚ではランク4のマジックポーチが買えるとの事だ。
ランク4のマジックポーチは縦横高さ4m、お財布ポーチの8倍の容量でお値段10倍か。
因みにマジックポーチのお値段表は
ランク・4、金貨300枚
ランク・5、金貨400枚
ランク・6、金貨500枚
ランク・7、金貨600枚
ランク・8、金貨700枚
中々のお値段で、ランク8以上になると1ランク上がる毎に金貨200枚値上がりするそうだ。
最高位のランク12で金貨1,500枚ときたね。
モーラさんが中古で良ければと探してくれた、ランク5のマジックポーチを買う事にした。
見た目は巾着に似た袋で縦横20cm程度で、ベルトに通す様に出来ている。
ランク5のマジックポーチなら、アーマーバッファローも何とか収まると思うので思い切って買った。
あの大きさの物が収まるのなら、大抵の野獣や魔物も収まるだろうと思ったからだ。
お陰で手持ち資金は25万ダーラで、文字通り空間収納に収めている手持ち資金だ。
話の流れから、ヨールの領主ホルト・レーゼン子爵は爵位を剥奪されて国外追放になったと聞いたが、興味なし。
まっヤハンとハインツには、レーゼン子爵は国外追放になったので何時でもヨールに帰れると教えておく事にした。
モーラさんにお財布ポーチの時と今回もお世話になったので、アーマーバッファローの小振りのお肉を進呈しておく。
小振りと言っても通学鞄二つ分位の肉塊に目を白黒させていが、アーマーバッファローの肉と言ったら大喜びされた。
別れ際クラクフ通りの裏通りに在る、奴隷商のサラセン商会について訪ねてみた。
「余り良い噂を聞きません。最も奴隷商は外聞の悪い商売ですので評判の良いと言うのもなんですがね。違法奴隷とか、娼館に屯する破落戸を雇って拐かしをしているとか、何かと黒い噂が立ちますね。何か因縁でも?」
「アーマーバッファローのお肉、お渡しした奴の4~5倍の大きさの肉を、金貨三枚で買い取ってやると言ってきた馬鹿がいるんです。その馬鹿のバックがサラセンらしいんです。最もその馬鹿は既に死に、以後音沙汰無しなので放置してますが」
* * * * * * *
昼は薬草採取とゴブリン狩り、時々ツーホーンと呼ばれるホーンドッグやホーンボア等を狩る生活が続いた。
今回からはマジックポーチが有るので、ゴブリン以外の野獣や魔物はマジックポーチに入れて持ち帰る事にした。
勿論心臓や脳の凍結した物を持ち帰る訳にはいかないので、心臓を冷やして動きを鈍らせた後で、アイスアローやアイスランスで仕留める事にしている。
気配察知・・・危険感知能力も奇襲を受ける事が無い程度には使える。
と言うより至近距離になれば気配を感じるので、氷壁で攻撃を防いだ後で脳や心臓を冷やす、お手軽戦闘に終始している。
9月になりマジックポーチにも獲物がたっぷり収まったと思い、一度ヘイエルの街に戻る事にした。
暑さに辟易しながら疎らな木陰を選んで歩いていて、不審な馬車を見つけた。
普通の馬車の作りと違う、頑丈な木組みに厚い壁板と小さな鉄格子付きの窓。
囚人用馬車って言葉が頭に浮かんだが、街道から外れて灌木の中に隠れる様に止めてある。
人の姿が見えなかったので完全に油断していて、肩に衝撃を受けて後ろに倒れ込んだ。
倒れて左手が動かないので見ると、肩の付け根に矢が突き立っている。
阿呆みたいに突っ立ち馬車を見ていて、周囲の観察が疎かになっていた報いだ。
複数の足音が近づいて来る。
鏃に抜け防止の顎が付いていない事を祈りながら矢を引き抜く。
魔物の心臓を食べた時の激痛に比べれば大した事はないが、左腕の自由が利かない。
〈居たぞ!〉
〈運の良い野郎だ、生きてるぞ〉
〈此奴も、序でにかっさらって行くか〉
〈男は大して金にならんからなぁ〉
言葉から奴隷狩りの連中の様だ、目の前に現れた六人の男達から身を守る為にドーム状の防壁を作る。
氷のドームを見てびっくりしているが、其れ処じゃない。
空間収納から中級ポーションを取り出して飲むが・・・不味い。
あの青汁の宣伝を思い出したが、渋柿の絞り汁を飲んだ様な不味さだ。
思わず宣伝の様に〈不味い!〉って言いそうになる。
氷のドームを剣で叩いたり蹴ったりしている奴等の足に、アイスニードルを射ち込み逃げられない様にしておく。
矢で射たれたって事は弓使いが何処かに隠れて居る筈で、矢が飛んできた方角は立っていた向きから判っている。
両太股をアイスニードルで射ち抜いた男達を放置して、氷の盾を持って馬車に近づくと、次々と矢が飛来する。
矢が射ち込まれる感じから、弓使いは二人と思うが居場所が特定できない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます