第11話 護衛依頼

 「あのー、護衛依頼受けて貰えますか?」


 「取り敢えず、レーゼン男爵領を離れる迄は受けても良いです。それから先はその時に考えますが良いですか」


 「有り難う御座います、宜しくお願いします」


 「おーし、そうと決まれば奴等の始末をつけておこうぜ」


 捕らえた奴等はやっぱりレーゼン男爵の配下の者だったので、簡単に話を聞いた後首を掻き斬って草叢に放置した。

 護衛の冒険者一人が死んだので埋葬し、負傷した冒険者はポーションを飲ませてムグラの町で休養させる事にする。

 彼等は〔真紅の剣〕のヤハンと〔旋風〕のハインツ五人づつのパーティーだったが、一人づつ減った事になる。

 ヤハンとハインツがそれぞれのリーダーだと名乗った。


 その日は遅くなり、ムグラの町には辿り着けず野営となってしまった。

 ヤハンとハインツから、明日の行動をどうするか意見を聞かれ待ち伏せを提案する。


 「少しでも早く、レーゼン男爵領を離れた方が良いのでは?」


 「今ムグラの町の手前だが、逃げた奴等が帰って報告する。俺達の所に負傷者を残しているから、誰の仕業か判る。モーラさんが住まう場所の領主に報告し、其れが王家に伝わったらどうなります」


 「レーゼン男爵様とコーエン侯爵様が、特別懇意だとは聞いてませんから・・・」


 「王家に伝わらなくても、レーゼン男爵の行いが噂になるのは不味いですよね。一度刺客を向けて失敗したからと、直ぐに諦めると思いますか、私なら失敗の報告を受けたら即座に倍の人数で追撃を掛けますね。遠くになれば為るほど、逃がす確率が高くなります。近くで始末したいでしょうよ」


 「で、ハルトは何処で迎え撃ったら良いと思う。それと倍の人数で襲われたら、勝ち目は無いぞ」


 「ただ逃げても、明日の昼過ぎか明後日の午前中には追いつかれますよ。勝算は無きにしも非ず、ってところかな。待ち伏せは、ムグラとザザビの間の適当な所としか」


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 〈おいおい、ハルトの言ったとおりだぜ〉

 〈はあー、20騎以上は居るなー〉

 〈暢気な事を言ってないで、予定どおりにやらなきゃ死ぬぞ〉


 早朝ムグラに到着すると負傷者を残し、そのまま町を通過してザザビに向かったが、予想どおり追撃の騎馬隊に追いつかれた。

 全員街道から逸れると、灌木の生い茂る場所を背に逆茂木を作り茨の木を集めて防御態勢を整える。


 〈大丈夫かなぁ〉

 〈まっ冒険者家業をしていれば一度や二度こんなピンチにも遭うさ〉

 〈いやいや、人間相手にそうそう合ってたまるかよ〉

 〈期待に応えてくれよハルト〉


 不完全ながらも防御陣を作り迎撃の準備を整えた時、騎馬の一団は馬を草原に乗り入れヤハン達の所にやって来た。


 「旦那方、物々しい様子ですが何か御用ですか」


 「ふん、用が何か知っているからの準備だろう。無駄な事だ」


 「そうとも言えませんよ、ご丁寧に盾を用意していますが無駄でしたね。奴は此処には居ませんぜ」


 ヤハンと騎士の遣り取りを聞いてハインツが手を振り下ろした。

 俺は離れた窪地から飛び出し、騎士達の斜め後ろに向かって駆け出す。

 50メートル以上離れていては流石にきついので、25メートル付近までダッシュだ。

 俺の存在に気づいた一人が俺を指差した時には、射撃位置に着いた俺のアイスランスが奴に向かって飛んでいた。

 着弾を確認せず、集団に向かって腕を伸ばし乱射する。

 外れてもヤハン達が陣取る場所には射ち込まない様に、斜め45度の位置からなので気軽に撃てる。


 〈オイ!〉


 その一言を残しアイスランスに胸を撃ち抜かれて倒れた男を見て、集団に動揺が走る。


 〈何だ?〉

 〈ギャァァァ〉

 〈奇襲だ〉

 〈何処からだ〉

 〈盾だ! 早くしろ!〉

 〈左後ろだ〉


 騎士達が俺を見つけて盾を構えようとした時、俺は集団の最後尾を攻撃目標に変える。

 其れを見てハインツやヤハンら8人が、逆茂木の後ろから飛び出し背後から襲い掛かる。


 〈えっ〉

 〈何をしている! 二手に分かれろ!〉


 偉そうに怒鳴っている奴を狙ってアイスランスの五連射を撃ち込む。

 ハルトに気を取られた背後を襲い、数名の死傷者を残してヤハン達が逆茂木の後ろに下がる。

 その間も俺はアイスランスの攻撃を続け、奴等を近づけさせない。

 半数以上は倒しているが、魔力切れに備えて空間収納からゴブリンの刺身を一切れ取り出し、口に放り込むと慌てて水をカップに受けて飲み干す。


 何度ゴブリンの心臓を食っても臭い!

 ゴブリンの心臓なら、熱暴走で何も出来ない様な間が開かないから便利だ。

 魔力の補給食だと思えば・・・オブラートが欲しいな。

 俺がカップの水を飲む間にも詰め寄って来るが、盾を撃ち抜くアイスランスを恐れて及び腰だ。


 〈ウオーォォォ〉

 〈鏖だー〉

 〈やっちまえー〉


 半数以上を倒され、腰の引けた騎士達に向かってヤハンやハインツ達が鬨の声を上げると、残りの騎士達が一斉に逃げ出した。

 その背に向かって追撃のアイスランスを撃ち込むが40メートル以上離れたので攻撃を止める。

 ヤハンやハインツ達に俺の最大攻撃距離を教える気は無い。


 〈まぁー、何というか思惑どおりに事が運んだな〉

 〈然し凄えな〉

 〈氷結魔法ってこんなに凄かったのか〉

 〈殆どハルト一人でかたづけているからな〉

 〈流石はゴブリンキラーだ〉

 〈ああ、昨日見せられた時も魂消たが・・・〉

 〈下手すりゃハルト一人で鏖に出来るな〉


 「ハルトさん、有り難う御座います」


 「礼は良いから此処を離れましょう。ゴードン子爵領に入っても、レーゼン男爵との付き合い次第では油断出来ませんから」


 負傷者に止めを刺すと現場を離れザザビ村に向かった。

 ザザビ村とウラス村ではモーラさんを乗せる馬車が見つからず、荷馬車でもと思ったが買えなかった。

 せめて馬が欲しかったが、騎士達の乗ってきた馬は散り散りに逃げていたし村では農耕馬すら買えなかった。

 レーゼン男爵の手配だろうが、村の警備兵達は俺達を襲おうとはしなかった。


 流石にレーゼン男爵も、無闇矢鱈と兵を差し向けて被害が大きくなれば隠せないと思っている様だ。

 歩き馴れないモーラさんを励まし、何とかゴードン子爵領コランの街に辿り着いたのは、迎撃戦から四日目の昼過ぎだった。

 疲れ切っているモーラさんをホテルに連れて行き、ハインツが馬車の手配に出かける。


 「ハルトさん有り難う御座います。貴方が居なければ確実に死んでいました」


 そう言ってモーラさんが深々と頭を下げる。


 「そうだな、ハルトが居なければ俺達は皆死んでいただろうな」

 「ああ、最初に襲われた時に死を覚悟したからな」

 「対人戦は冒険者の本業じゃないしな」

 「獣と違って駆け引きしてくるし、人殺しの訓練をしている連中は手強いからなぁ」


 「ハルトさん、出来ればこのままコーエン侯爵領ヘイエルの街まで護衛をお願い出来ませんか」


 不本意とはいえ、レーゼン男爵領で男爵の配下の者を殺したから戻れないし、コランの街も近すぎるので依頼を受ける事にした。

 その際モーラさんから出会いの時に助けた謝礼として金貨10枚を貰った。

 逸れに護衛料として一日銀貨五枚が提示され、多過ぎるのではと辞退したがヤハン達には一日銀貨二枚支払っているが、貴方の実力からしたら安すぎるが彼等との兼ね合いも有るので、申し訳ないと言われてしまった。


 一日モーラさんの休養をいれ、馬車二台と騎馬の冒険者10名を雇い出発した。

 コランの街からヘイエルの街まで、馬車で12日の距離で途中多くの街や村を通過したが、襲撃も無く無事到着した。

 ヘイエル冒険者ギルドの前でモーラさんと別れ、俺は真紅の剣と旋風と共にギルドの中に入る。

 ヤハンとハインツは依頼完了の書類を提出し、清算金を貰っている。


 俺は護衛料の金貨6枚と謝礼の金貨10枚を貰ったので、ギルドに預けている151万ダーラと合わせれば、お財布ポーチを買う資金が貯まった。

 お財布ポーチを買えば残金11万ダーラに、空間収納にある数万ダーラだが当分食うには困らないので良しとする。

 預けていた金を受け取ると即行でモーラ商会に出向いたが、モーラさんは領主コーエン侯爵邸に出向いていると言われた。


 店員からハルト様の事は主人より言付けられていますと言い、お財布ポーチを金貨20枚で譲って貰えた。

 主人よりハルト様にお売りするポーチは、金貨20枚だと厳しく申し渡されていますと言われ有り難く好意に甘えた。


 お財布ポーチに血を一滴垂らして魔力を流し、使用者登録を済ませ説明を受けた。

 ギルマスに聞いた通り、縦横高さが約2メートルの収納力がある。

 時間遅延機能により、食糧等は3~4ヶ月程度は腐らずに食べられるそうだ。

 物にも依るが4ヶ月を過ぎると鮮度が落ち、半年もすると食糧は駄目になるが、堅パンやビスケットはもう少し長持ちするらしい。

 それと生き物は入れられないと言われ、ラノベの常識だよと心の中で突っ込んでおいた。


 俺は冒険者なので、そのままお財布ポーチを腰に付けると何かと問題が起きるので、冒険者が腰に付けるウエストバッグの中に仕込む方法を教えて貰った。

 小さめのウエストバッグはお財布ポーチよりも大きく。財布の革袋やナイフに細々とした物を入れるバッグだが外からは見えない様に収まる作りになっていた。

 冒険者がお財布ポーチを買うときのサービス品だと言われ、有り難く貰い礼を言ってモーラ商会を後にする。

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