第10話 キリト
姉と会った三日後の夜、姉と長兄のアルトがホテルにやって来た。
食事中だった俺のテーブルの前に来て、何故ハルトが居るのだ会う必要は無いと言い出したが、親爺の事で5分も掛からない話だと言って座らせる。
姉のヘレナから聞いた話を伝えると始めは信用しなかったが、俺の話では無く姉が聞いた話だと言うと考え込んだ。
父の症状は姉から聞いていたので兄に事実を確かめる方法を教えて、キリトのやった事だったら俺の所に来いと言って帰らせた。
キリトに気づかれる事無く真相を確かめるのは難しくない、事実を知って決断できるかどうかが問題だ。
グズグズしていたら次はお前が奴の標的になるのは確実だ、と言ってやったので引き延ばしはしないだろうと思う。
キリトの趣味と実益を兼ねた、お家乗っ取り計画は失敗に終わるな。
二日後に長兄のアルトがやって来て、お前の言ったとおりだと告げた。
アルトには父に問いかけて、返事はイエスなら瞬き二回、ノウなら瞬き三回で返事をしてもらい色々疑問な事を質問しろと言っておいたのだ。
キリトに遣られたのかの問いに瞬き二回、倉庫にはキリトと一緒に行ったのかの問いにも瞬き二回、荷物が落ちてきたにしては怪我が多いが、キリトに追加で怪我をさせれられたのかの問いにも、瞬き二回の返事をしたと項垂れている。
「で、どうする。親爺や兄貴達が、俺の話を信用しなかったのは無理も無い。しかし、このままだと次は兄貴が死んで、店は奴が継ぐぞ。そしたら母さんが病死かな」
「お前! そんなに暢気な話では無いぞ!」
「えっ、俺は家を追い出された身だ。二度と戻って来るなと言われているし、それに三男坊の穀潰しだからな。俺が関わったのは、命の恩人である姉さんの頼みだからで、親爺の怪我が奴の仕業だと教えただけだよ。今からキリトが親爺を殺そうとしたと言っても、誰も信じないだろう。それより兄貴が俺の様な嘘つきだと思われるだけだな」
「悪かった。どうすればいいのだろう」
「キリトを家から放り出す決断だけしろ! 後は俺が奴を街から叩き出し、二度と家には戻ってこられない様にするさ」
「それは・・・」
「人に聞かれたら、店の金を持って姿をくらましたと言って憤慨していればいいさ。それ以外の事を喋ればボロが出るからな」
兄が了承したので家に戻り、キリトの旅支度だけして待ってろと言って帰した。
俺は鍵が開けられた裏口から家に入ると、兄からキリトの旅の荷物を受け取り、朝までキリトの部屋には誰も近づけるなと言って背を向ける。
キリトに長年の恨みと引導を渡す為に、奴の部屋に向かった。
ノックもせず部屋に入ると、酒を呑んでいたキリトは俺の顔を見て口を開き掛けたが、アイスバレットを腹に受けて一言も言えないまま崩れ落ちた。
腹を抱えて唸るキリトの手足を縛り、口にボロ布を詰め込む。
「残念だったな、親爺の死に行く様を楽しむつもりだった様だが、お前が先に死ぬ事になる」
真っ青な顔になり、震えながら何か言っているので疑問に答えてやる。
「心配するな、お前は店の金をちょろまかして街から逃げ出すのさ」
そう言って兄アルトに用意させた、旅支度の荷物を見せてやる。
お前が親爺を倉庫に呼び出した事をヘレナが聞いて居たと教えてやり、アルトも親爺に色々質問してお前のやった事を知っていると話すと、暴れ出した。
しかし、手足を縛り動けなくしているので、碌に音も立てられない。
何の為に手足を縛り小さくしていると思っているのか、今から教えてやる。
「街を出るのなら姿を見られるので、得意の口で逃げられると思ってそうだな。俺が授かった魔法の事など覚えて無いだろう。空間収納と氷結魔法だ。因みに、お前の腹に叩き込んだは氷結魔法のアイスバレットだな」
そう言って転がっているソフトボール大の氷を見せてやり、おもむろに収納に仕舞う。
「ご覧のとおり空間収納も氷結魔法も使えるんだよ。」
そう言って奴の旅の荷物を空間収納に入れる。
「お前を殺すと言った約束どおり、此処でお前を氷漬けにして空間収納に入れて街から出るよ」
必死に首を振り、動けない身体で頭を下げるキリトを足からゆっくりと凍らせる。
「あばよ、嘘つき」
腰まで氷に包まれたキリトに聞こえたかどうか判らないが、別れの言葉を告げてから全身を凍らせて空間収納に入れた。
街を出て森に入り、凍ったキリトの衣服を剥ぎ取り粉々に砕いて放置する。 衣服は何時もの様に焼き捨てて証拠隠滅、科学捜査の無い此の世界は完全犯罪が簡単にできる。
* * * * * * *
冒険者ギルドに行き、蓄えていたゴブリン以外の魔石を売り払う事にした。 オーク、18,000ダーラ×26=468,000ダーラ
ハイオーク、28,000ダーラ×2=56,000ダーラ
ビッグフォックス、10,000ダーラ×1=10,000ダーラ
グレイウルフ、7,000ダーラ×11=77,000ダーラ
ブラックウルフ、7,500ダーラ×19=142,500ダーラ
ホーンドッグ、5,000ダーラ×23=115,000ダーラ
ホーンボア、4,500ダーラ×1=4,500ダーラ
合計873,000ダーラ、800,000ダーラをギルドに預けて、73,000ダーラを貰って市場に行く。
食糧を仕入れたら、傷んだ服とブーツを買い換えてから街を出ようと思ったが、以外に服やブーツが高くて手持ちの22万少々では足りない。
ギルドに引き返して20万ダーラを引き出し、再び服を買いに戻る羽目になった。
冒険者用ズボンにフード付きジャケットにマントで14万ダーラ、ブーツが8万ダーラとお高いこと。
街を出るといっても闇雲に彷徨いても仕方がないので、王都を目指す事にした。
早朝開門と同時に隣の領都ザラセンの街を目指して歩き出す。
此の世界を見物がてら移動する方が楽しそうだし、路銀とお財布ポーチ代を稼ぎながら旅をするつもりだ。
だが隣の領地まで馬車で六日の距離、途中の村や小さな町を飛び石の様に伝って行く事になる。
今日の目的地はムグラの町だ、稼げそうなら暫く滞在してもいいかな。
等と考えながら歩いていると、街道脇に煌めく物が見えた。
冬とは言え陽も高くなった草原で、煌めく物は刀剣や槍の穂先くらいの物だろう。
ちょっと嫌な予感がするが、好奇心に負けて近寄ってみる。
10対8の闘いで、既に三人が倒れている。
冒険者風の衣服に身を包んだ集団と、もう一方は明らかに戦力外の商人風な男と冒険者達だ。
周囲を見回しても魔法使いや弓持ちは居ない様で、どちらに加勢しようか迷っていると、物腰が騎士風の男に声を怒鳴られた。
「誰だ、貴様は!」
この一言で冒険者風の男達に手を貸す気を無くした。
「誰って言われても、通りすがりの冒険者ですよ」
「助けて下さい! お願いします!」
オッケー。礼儀正しい方に力を貸すが、殺しちゃ不味そうなのでアイスバレットを腹や足に撃ち込む。
レーシングカー並みの速度で撃ち込まれたアイスバレットを、腹に食らって悶絶したり足に受けて立てない者が出ると、形勢が逆転した。
冒険者風の三人が斬られた所で、残り三人が逃げ出した。
もう用は無いので勝手にやってくれと言って街道に戻ると、追いすがってきて引き留められた。
「お願いです。冒険者の方なら、私達をフルム地方のヘイエル迄の護衛をお願いします」
旅支度なのだろうが、上等な身なりの男が真剣な顔で言ってくる。
ヘイエルって・・・フルムって隣の隣の領地だったよな、地理に疎いので考えていると改めて依頼された。
「ご無理なら。護衛の冒険者を雇える所まででも構いません。お願いします」
初老に掛かる年齢に見受けられるが、ちょっと興味が湧いたが興味というより疑問かな。
「少し聞いても良いかな」
「何でしょうか」
「襲う襲われるのは、事の如何に関わらず理由が有るだろうから聞かないが、あんたは何故馬車で移動しないんだ」
この男と怪我をしていたもう一人だけ身なりが良いが、目の前の男が主人で怪我人が従者か護衛といった感じだ。
そんな人間が徒歩で護衛の冒険者を連れて旅をしているのは不自然だ。
「私はフルム地方ヘイエルの街で、魔道具商を営んでいますモーラと申します。名前は申せませんが、あるお方に高価な魔道具を売りましたが、一括での支払いに応じて貰えずやむなく分割に致しました。此の度残金を受け取りに出向きましたが、ごく僅かの支払いしかされずに追い返されました。仕方なく帰ろうとしたら、馬車は壊され御者が居なくなってました」
「あー、馬車を雇おうとしたら断られたんだな」
「はい、一台の馬車も借りる事が出来ませんでした。私は馬に乗れませんので、馬車が雇える所まで歩く覚悟で護衛の冒険者を雇い、此処まで来た所で襲われたのです」
丸っきり、支払いを渋った奴の仕業と言っている様な話だな。
「兄さん済まねえ、助かったぜ」
「あんたはゴブリンキラーだな」
「えっ、ゴブリンキラーって、何だよそれ」
「えー、ギルマスがあんたの事をそう言ってたじゃないか」
「て事はあんた等は、あの時あそこに居たのか」
「ああ、いい話を聞かせて貰ったから、エミナ村に行って稼がせてもらったよ」
「然しあんた、結構な魔法使いなんだな。さっきのを見れば、一人でゴブリン200頭討伐も頷けるよ」
「フルムまでの護衛を手伝って貰えないか」
「それだが、さっきの話とあんた等の話を聞けば、相手はヨールの領主様だぞ」
「あっ、それなら大丈夫、俺達は冒険者だ何処に行こうが生きていける」
「そそ、レーゼン子爵の領地から出ちまえば関係ないね」
隣町に行くつもりだったのに、遠くへ行く事になりそうだがまあ良いか。
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