第12話 討伐依頼

 格安でお財布ポーチが買えた結果、残金が111万ダーラになったので欲しかった手槍を買う事にしたが暫く街に留まる事になるのでホテルを探す。

 食事が美味く部屋が綺麗だと聞いた〔月夜の亭〕に一週間分の料金を払って部屋を取る。


 宿も鍛冶屋もギルドが教えてくれた。

 ヨールの街の冒険者ギルドと比べ、サービスが全然違うのでびっくりだ。

 同じ冒険者ギルドと名乗っているが、独立採算方式なのか土地に依ってサービスにむらがある様だ。


 紹介された武器屋は〔ゾランの店〕捻りも何も無い素っ気なさは、店構えにまで現れている。

 槍の制作を頼むと、金は有るのかの一言が返ってきたので黙って店を出た。

 〈たっく、やっぱり冷やかしか〉って声が聞こえるが、どうとでも思え。

 暫くこの街に居るつもりだから、慌てずに良さそうな武器屋か鍛冶師のいる店を探せば良いと気持ちを切り替える。


 お財布ポーチが手に入ったのだから、市場で遠慮なく食糧を買い込みお財布ポーチに放り込んでいく。

 スープも小さめの寸胴に20人前を買い、お財布ポーチに入れホテルに帰ってから空間収納に移動させる。


 真紅の剣と旋風のヤハンにハインツ達も、暫くこの街に留まると言うので周辺の地理を覚える為、一緒に出歩く事にした。

 草原は迷う事は無いので、森を中心に道を覚えベースキャンプに都合の良い木を探す。

 一週間ほど彼等と地理を覚える為に同行したが、ベースキャブを作って魔力を増やす生活に戻る事にした。


 イカ刺しの半分量のハイゴブリンの心臓を食べても、熱暴走に耐えられる様になるのに二月かかったが、概ね満足できたので街に戻る事にした。

 魔力も増えた様だが正確に計る術がない、冒険者ギルドで計れるかも知れないが魔力10のままにしておきたい。

 魔法が使える事も公言する気は無いし、知っている人数も10人ほどだから当分は隠せる。


 現在空間収納の容積は約1.5メートルの球体か立方体、正確に計る術がない。

 氷の風船も1.5メートルとなると作るのも面倒だし、空間収納を空にするのはもっと面倒だ。

 考えついたのが棒を十文字に括り、縦軸を付けた物を空間収納に入れる方法だ。

 この方法で計ったところ、1.5メートルの長さの物が収まった。


 生活魔法のウォーターが木桶に1/3くらい、フレイムはピンボン玉より大きく出来る。

 ゴブリンの心臓の魔力が無い状態の自力魔力で、アイスアローを約25本。

 アイスランスを11~2本撃てる様になったが、其れと同時に身を守る氷の盾を作る練習も始めた。

 最低限自分の攻撃に耐えられる盾を、瞬時に作れる様になれば安心できると思ったからだ。


 街に戻ると冒険者ギルドに寄り、魔石や薬草の査定を依頼して待つ。

 殆ど顔を出して無い見知らぬ冒険者だから、皆一様に俺をジロジロ見て値踏みしていく。

 多分荷物を何も持たずにショートソード一本ぶら下げている事から、お財布ポーチ持ちだと判っているのだろう。

 手練れの冒険者なら、迂闊に絡めば命取りになるとふんで声を掛けてこない。


 今回は訓練に忙しかったので、薬草も魔石も少なめで査定用紙には12万ダーラ少々の記載。

 精算カウンターで金を受け取っていると肩を叩かれた。


 「ハルト何処へ行ってたの。もう街を出たのかと思ったよ」


 「ハインツか、森で訓練していたんだ」


 「伝言を預かっているのだが、もう二月近くなるからどうかな」


 「誰から?」


 「モーラさんから、一度店に来て貰えないかって。それはそうと身軽な格好だが・・・」


 黙って腰を叩いておく。


 「幾らした?」


 「本来は金貨30枚だが、護衛の謝礼として20枚で売って貰えたよ」


 「金貨30枚かー、おいそれと買えないよな」


 「ギルドに150万ダーラ程預けていたので、護衛依頼料と助けた謝礼を合わせて買えたのさ」


 暫くハインツ達とエールを酌み交わし、街の情報を仕入れてから〔月夜の亭〕に向かった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 「良かった、もう街を出たのかと思ってました。実は街に戻って直ぐに、コーエン侯爵様を訪ねて事の次第を報告したのですよ。貴族の風上にも置けないと大層お怒りでしたが、事の経緯を話す過程で貴方に興味を持たれましてね。一度会って魔法の威力を見たいと、結果次第では野獣の討伐を依頼したいと繋ぎを頼まれました」


 「貴族からですか・・・」


 「ああコーエン侯爵様は、権威を振りかざす方では御座いません。依頼を断っても大丈夫ですよ。ただ会うだけは会って貰えませんか、お願いします」


 深々と頭を下げられ、お財布ポーチを格安で譲って貰った弱みもあり会う事になった。

 翌日モーラさんが俺の宿まで迎えに来たので、馬車に同乗してコーエン侯爵邸に出向く。

 通用門から入り、出入りの業者や貴族以外の客人を迎える部屋に通された。


 フロックコートに似た服装の、如何にも執事って感じの初老の男に案内されてコーエン侯爵の元に向かうが、ドアや通路の板壁に刻まれた彫刻や壁の肖像画が権威の高さを物語る。

 と言うより、俺に取っては金の掛かった物にしか見えない。

 一般の領民が此処に来れば、肖像画や彫刻を施された柱やドアに圧倒されるんだろうなと思ってしまう。


 ノックの後許されて執事がドアを開け、促されてモーラさんに続いて室内に入る。

 執務室の様だが広いねー、巨大な執務机の奥に座る男の前で深々と頭を下げるモーラさん。

 俺は後ろで軽く腰を折り会釈をする。


 「お話しのハルト殿を連れて参りました」


 「良く来てくれた。モーラ殿から話を聞いて頼みたい事が有るのだが、その前に実力を見せて貰えないか」


 「侯爵様、私は冒険者です。実力を見せろと言われても見せる気はありません。それと私のランクはブロンズですので、御用が有りましたら冒険者ギルドに依頼をお出し下さい。シルバー,ゴールド,プラチナと、高ランク冒険者をお雇いになられる事をお勧めします」


 〈なっ〉そう言ってモーラさんがビックリしている。

 壁際や侯爵の後ろに控える護衛達の気配が変わる。


 「ああ、すまない説明不足だったな。ヘイエルの一つ王都よりに、バガンの街がある。バガンより右に行けばシンシラと言う村に向かう街道が有るのだが、その街道沿いにアーマーバッファローが居着いて難儀している。もう何人も犠牲になっているので、冒険者ギルドに依頼を出しているのだが、誰も討伐に名乗り出ない。君はヨールの街でゴブリンキラーの異名を持つ様だし、モーラ殿の話では騎士の持つ盾を氷結魔法で楽々と撃ち抜いたそうだね」


 またゴブリンキラーか、あのギルマスの糞野郎が人に変な二つ名を付けやがって、ヨールに戻る事があったら覚えていやがれ。


 「判りました。モーラさんの頼みですし魔法攻撃を見せましょう。但し私は他の魔法使いの攻撃が、どの程度なのか知りません。侯爵様お抱えの中から、最強の魔法使いと比べて見たいのですが宜しいですか」


 「判った、一番の攻撃魔法の使い手を用意しよう」


 渋々見せるが侯爵様お抱え魔法使いの実力を知る、絶好のチャンスだ。

 騎士達の訓練場の一角に作られた標的に向かい、侯爵様お抱えの魔法使いと腕試しをする事になった。


 「先ず儂が手本を見せるが、あの標的は極めて頑丈に作られているので壊れる事は無い。遠慮せず全力で攻撃せよ」


 尊大な物言いでそう告げると標的に向かい詠唱を始めた。


 〈炎よ地獄の業火よ、我の願いに応えて彼を焼き尽くさん、ハッ〉


 思わず笑い出しそうになったが、歯を食いしばり笑いの発作を抑える。

 差し伸べた腕の先、掌を的に向けて詠唱が終わると、直径50センチ程の火球が現れ掛け声と共に的に向かって飛翔する。

 速度は精々強弓から射ち出す矢といったところ。

 〈パァーン〉と軽い音と共に炎は砕け散り、新たに付けられた的が黒く焦げている。

 悠然と振り返り、どうだと言わんばかりの顔で頷く。


 「お前の全力攻撃を見せよ。手抜きは侯爵様を侮辱する行為と見なすぞ」


 偉そうに言うね。

 然し無詠唱で魔法を使うと何か言われそうなので、口の中でモゴモゴいって誤魔化す事にする。

 的に向かい腕を伸ばし掌を的に向ける、此処までは同じだが口の中で〈ダルマさんが転んで、屁をこいたら臭かった〉


 〈ハッ〉 〈ドゴーン〉


 アイスランスが現れると同時に標的に向かって飛翔し、重低音を響かせ的を射ち抜いた。

 あららら、的の後ろの石積が何個か抜け落ちている。


 「見事だな、話しに聞いていたより遙かに威力が有りそうだ」


 「待ってくれ、今のは短縮詠唱なのか、其れとも無詠唱・・・」


 「口内でですが詠唱はしてますよ。私は冒険者です、声に出して詠唱していては獣に気づかれますからね」


 「侯爵様、この者を召し抱える事をお勧めします。この者を加えれば、我が魔法部隊の戦力が一気に上がります」


 このおっさん何を一人で勝手な事を言ってるのか、余り舐めた事を言ってると心臓を凍らせるぞ。

 頭の中に(こころ、こおら~せて♪)のフレーズが浮かぶ。


 「アーマーバッファロー討伐の件受けて貰えるか」


 「お断りします」


 〈なっ〉

 〈小僧頭にのりおって〉

 〈ハルトさん〉


 「理由は簡単です。私は薬草採取と、ゴブリンやホーンラビット程度しか狩った事が有りません。アーマーバッファローなんて初めて聞きましたが、どの様な獣か知りませんし姿形や弱点なども一切知りません。此れを討伐しろとは、死ねと言われているも同然です。そんな依頼を受ける馬鹿はいません」

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