第15話 海だ!!
「海だー!」
優奈はまるで子供のように両手を上げながら、目の前に広がる景色を見て叫びを上げた。
サエナイはそんな優奈に笑みがこぼれ、次に隣に立っている二人の神様を見ると、目を見開いていた。
「これが海」
「広大だな」
彼女たちがこうして海を見るのは初めてらしい。
山の守り神なのだし仕方ないだろう。
サエナイ達がやってきたのは電車で片道二時間、最寄駅から歩いて約三十分のところにある、海水浴場だった。
周囲を見渡してみれば大勢の人。夏になると海水浴客で賑わい、テレビの取材も来るほど有名な場所だ。
「じゃあ着替えましょうか」
海に見惚れるのも悪くはないが、今日の目的は海を楽しむことにある。
サエナイは二人の神様を促し更衣室に向かい、ショッピングモールで購入した水着に着替える。
先に水着に着替え終わったサエナイは、更衣室から出てすぐのところで三人が出てくるのを待つ。
「……」
待っている間に自分の身なりを軽く確認した。
別に見た目を気にするほどのルックスはないが、こうしてプライベートで水着を着て海に来るのは幼いころの一度きり。
自分の肌を晒すのは少し恥ずかしい気持ちがあった。
運動や筋トレを普段行わない自分の体はガリガリそのもの。
こうして肌を晒す機会があると、筋トレをして少しでも筋肉をつけたほうがいいだろうか。
まあ、そう思うだけで行動には移さないのだが。
そんなことを考えていると、更衣室のほうから何やら騒がしい声が聞こえてくる。
何となく予想は出来るが気になって振り返ってみると、そこには水着姿に着替えたヨウコ、アミラ、優奈の三人が周囲の人の注目を集めていた。
ヨウコの水着姿はショッピングモールで一度目にしているが、それでも目を引かれてしまうほどの魅力がある。
アミラは他になかったのか黒のビキニ姿なのだが、やはり胸が大きすぎるせいでよくないものに見えてしまう。
優奈は普段の憂鬱そうな雰囲気はどこかへ行ってしまったのか、ピンクのビキニ姿が似合っていた。
周囲に目を向けてみると、ヨウコの清楚と大人びた雰囲気に口を開けて放心状態の人が十数名見受けられる。アミラの姿を見た人は複数人が鼻血を出しており、お子さん連れの親御さんは、咄嗟に子供の目を手で覆っていた。
「ママ~何も見えないよ?」
「あなたが見るのはあと十二年早いわ」
そんな会話が耳に届いてくる。
「え、めっちゃ美人じゃん!」
「モデル?」
「お前、話しかけて来いよ」
「むりむりむりむり」
周りから歓声のような声がざわざわとしている。
そんな周囲の反応をよそに、三人がサエナイのもとへやってきた。
「お待たせ~」
「待たせたな人間」
声をかけてくる優奈とアミラだが、ヨウコは何やら周囲を気にしていた。
「どうしましたヨウコさん?」
「何やら周囲から視線を感じるのですが、キツは何かおかしいでしょうか?」
「大丈夫ですよ」
まったくもって可笑しなところはないが、ある意味では人間離れしていておかしい。いや、この人は神様なので人間ではないのだが。
そのことを知るのはこの海水浴場でサエナイと優奈だけ。
何やら優奈がビニールの塊を広げだした。どうやら浮き輪のようだ。
それを空気を入れる口から、自分の口で一生懸命に膨らませ始めた。
楽しむ気が満々のようだ。
サエナイはあることが気になり、優奈に話しかける。
「そういえば、ビビらないんだな」
そう、ショッピングモールに行ったときはサエナイの後ろに隠れていたが、今はそんな様子は見受けられない。
それよりも自分から海の話を持ち出したくらいだ。
優奈は浮き輪から口を離す。
「え、だって海だよ? ショッピングモールと違って狭い場所に人が密集してるわけじゃないじゃなん?」
「ん~、そっか?」
いまいち理屈が分からないが、中か外かで気持ちがだいぶ変わるらしい。
「優奈様は何をされているのですか?」
「浮き輪を膨らませてるんです」
浮き輪を初めて見たヨウコは不思議そうに眺める。
「それを膨らませればいいのですか?」
「はい、でも結構大変で」
と、優奈が苦笑いを浮かべると、ヨウコが浮き輪に向かって人差し指を向けたかと思うと、膨らみかけだった浮き輪がボンッと勢いよくぱんぱんに膨らんだ。
「これでどうでしょう?」
「あ、ありがとうございます……」
ニコリと笑んで見せるヨウコだが、優奈は膨らんだ浮き輪を見て、途中までの努力は何だったのだろうというような顔をしていた。
「何してるんだお前たち。早くいくぞ!」
行きたくてうずうずしているアミラが少し離れたところから大声で呼んでくる。
もしかしたら四人の中で一番楽しみにしていたのは優奈ではなくアミラなのかもしれない。
そんなアミラに苦笑しつつ、ユウキも海へ向けて。
「それじゃあ行きますか!」
「「海だー!」」
四人は一斉に水しぶきを上げながら海へ飛び込んだ。
「おお、しょっぱいな! これが海か!」
「目が染みるわ! これはいったい何? サエナイ様、これは何ですか?」
ヨウコが目をごしごしと擦りながら、海水を見つめる。
「ああ、それは海水だからですね」
「海水はしょっぱいだけではないのですね」
初めての海に興奮気味なヨウコとアミラ。
三人の横を浮き輪に乗った優奈が波に揺られていく。
「あ~、浮き輪に身を預けるのは極楽だ~」
ユウキ自身も興奮していた。海に行ったのは小学校の頃に一度きり。高校生にもなってそこまで楽しめるものかと思っていたが、思っていた以上に楽しい気持ちが沸いていた。
「わ⁉」
突然海水が襲ってきて思わず顔を背けて確認すると、どうやらヨウコがこちらに向かって海水をかけてきたようだ。
「テレビで見たのですが、海ではこうして遊ぶのですよね?」
そう言ってまた海水をかけてくる。
「やり返される覚悟はできてますか? それ!」
「きゃ⁉」
サエナイもヨウコに倣うように海水をかけ返す。
ヨウコは思わず女の子っぽい声と共に両手で顔を覆い、乱れた前髪のかきあげるのだが、その仕草があまりにもモデルの撮影シーンように見えてしまい、サエナイは見とれてしまう。
「……」
「どうかしましたか?」
ヨウコがサエナイの間抜けな顔を見て首をかしげてくる。
「い、いえ、なんでもありません!」
と、サエナイは何か視線を感じて周囲を見渡してみると、周りで遊んでいた海水浴客がヨウコに見惚れていた。
前髪をかきあげる仕草一つで周囲を魅了してしまうとはとんでもない神様だ。
「サエナイ様。やり返すのに倍返しというものがあると聞きましたよね」
ヨウコはそう言って海水かける準備をすると。
「倍返しだ~!」
「のああああああ⁉」
その言葉とともにバシャッと水しぶきを上げたかと思うと、想像していた勢いの何倍もの、まるで波のような威力がサエナイに襲い掛かる。
耐えられるはずもなく波にのまれてしまい。
「ちょちょちょ⁉」
のんびりしていた優奈にも二次被害が出てしまい、浮き輪から放り出されてしまった。
「どうですかサエナイ様? 倍返しとはこのくらいでいいのでしょうか?」
「あの、倍返しを優に超えてますよ……」
溺れ死ぬところだった。
と。横で水しぶきが上がったかと思うと、アミラが姿を現して何かを手に掴んでいる。
「人間! これを今日の夜食にしよう」
そう言って手に持っていたのはなんとクラゲだった。
「いや、クラゲの食べ方はわからないので逃がしてください。というか毒とか大丈夫なんですか?」
サエナイの言葉に首をかしげるアミラ。
「毒があるのか? まったくなにも感じないが。そうか、これは食べ方が分からないのか。ならば我が毒見をしてみるか」
アミラはそう言うと、手に持っていたクラゲを丸ごと口に突っ込み、咀嚼するとごくりと飲み込んだ。
「ふむ。海水の味がするだけで美味しくはないな」
「……」
まさか何の処理もしていないクラゲをその場で食べるとは、思わずサエナイは言葉を失ってしまった。
「アミラ。キツでもそんなもの食べないわよ」
ヨウコもアミラの行動は考えられないらしく渋面を作っていた。
「ヨウコも食べるか?」
アミラがそう言ってクラゲをもう一匹差し出してくる。
「いらないわよ!」
「そうか」
アミラはクラゲを遠くへ投げ飛ばした。もう一匹を食べるという選択肢はなかったらしい。
「私のことは無視?」
そう言って浮き輪を引っ張りながらやってくる優奈。
「ねえ、せっかくだから砂風呂やってみない?」
「砂風呂とは何ですか?」
ヨウコの問いをきっかけに四人は浜に移動し、人が少ないところを見つけると、ヨウコとアミラを浜の上に寝かせ、サエナイと優奈はそれぞれ二人に砂を上からかけていく。
それから十数分が経過し、出来上がった。
上から見ると、ヨウコとアミラの今の姿はまるでミノムシのような形で、顔以外の全身を砂に覆い隠されていた。
「これが砂風呂ですか」
「なんで我もやらなければならないんだ」
感想を口にする二人の神様。アミラは少し不服そうだ。
「なんだか暖かいですね」
「肌触りが気持ち悪いぞ」
それから数分が経過すると。
「暑いな」
「汗が出てきました」
結局、神様たちにはあまり公表ではなかったようだ。
砂をどかそうとしたが流石は神様というか、ただの怪力の持ち主か、まるで砂の重さを感じさせないようにすっと起き上がって見せて来た。
砂風呂から解放されたアミラが体を伸ばしながら。
「腹減ったな~」
「さっきクラゲとやらを食べたばかりでしょ」
「あれはただの毒味だ」
会話をする二人にサエナイは。
「何か食べますか?」
提案してみると。
「何があるのだ?」
「お店を見てみないと分からないですけど、焼きそばとかはあるんじゃないですかね」
「よし、食べに行くぞ」
アミラの要望で少し早めの昼食を摂ることになった。
海といえば海の家だろう。
定番なものはあるはずだ。
海の家に行くと、いい感じに日焼けしたお兄さんが店番をしている海の家や、可愛らしい女性店員さんが接客をしているお店も見受けられる。
立て看板にあるメニュー一覧を見てみると、焼きとおもろこしに焼きそば、櫛肉、たこ焼き、かき氷などがあるようだ。
店内には飲食スペースがあり、買ってきたものを飲食することも出来るようだ。
「いらっしゃいませ……」
店内に入ると女性店員さんが出迎えてくれたのだが、言葉が小さくなりヨウコとアミラをじっと見つめていた。
こんなにもスタイルの抜群すぎる人が来れば、こんな反応になるのも無理はないだろう。
「あの~」
サエナイが話しかけると、固まっていた店員さんが我に返ったような反応を示す。
「は、はい。四名様ですね。お席はご自由にどうぞ」
とりあえず四人席に座る。
「何食べますか?」
サエナイはメニューを確認しながらヨウコとアミラに確認を取ると。
「とりあえず全部だな」
「キツもアミラと同じでお願いします」
「私の分も奢ってね」
「それは自分で買ってくれ」
お金は足りるだろうか。
少し所持金を気にしながらも四人分を頼むと、店員さんは少し驚いた様子を見せながらも注文を承ってくれた。
調理場ではいそいそと頼んだ料理を作っている様子が見受けられ、焼きそばやたこ焼き、とうもろこし、櫛肉など次々にテーブルに料理が運ばれてくる。
テーブルの上はあっと言う間に料理が盛られたお皿でいっぱいになっていた。
「「「「いただきます」」」」
四人は手を合わせて料理に手を付けていく。
「上手いな」
「美味しいですね」
アミラとヨウコが美味しそうに料理を次々と口に運んでいく。
サエナイも料理を口に運びながらふと海を見た。料理的には普段食べているものとあまり変わらないのだが、景色などの影響かとても美味しく感じた。
「酒も飲みたいな!」
「お酒はありますか?」
突然そんなことを言い始める二人の神様。
「え? 昼間から飲むんですか?」
「ビールがあるらしいぞ!」
「ビールお願いします!」
「はあ」
お酒好きの二人の神様を止めるのは人間にはできない。
飲み食いして一時間ほどが経過して。
「ありがとうございました!」
店員さんの元気のいい声を背中に受けながら海の家を後にした。
お昼にここまで食べたのは久しぶりだ。
少し休憩をした方がいいかもしれないが、神様二人はそれを許さない。
「よし遊ぶぞ~」
「行きますよ~」
ビールを飲んだせいか酔っているように見えるが大丈夫だろうか。
「無理しないでくださいよ?」
「心配するな人間。我を誰だと思っている」
「神様ですけど」
「そういうことだ」
高笑いをして見せるアミラだが大丈夫だろうか。
「私は浮き輪でのんびりしてくる~」
優奈はまた浮き輪をもって海へ向かっていき、アミラもそれに続くように歩いていった。
アミラに対して不安を感じていると、顔を少し赤くしたヨウコが近づいてくる。
「ヨウコさん? どうしました?」
「ん~」
ヨウコは唸ると、サエナイの手を掴んで歩き始めてしまう。
「え? え、え? ヨウコさん?」
一体何がどうなっているのかよく分からず、戸惑いながらも振りほどくことの出来ない力で手を引かれ、ただただヨウコに連れていかれた場所は浜辺から外れた岩場だ。
一体何がどうしてこうなったのか分からず頭がフリーズしていると、ヨウコがこちらを振り向いて顔を近づけてくる。
「な、ななな何ですか!?」
サエナイは突然のことに顔を真っ赤にしながら身を引こうとするが、腕を掴まれているせいで距離をとれない。
「ん~サエナイ様はキツとのちゅーは嫌なのですか?」
「え?」
サエナイは予想外の言葉に思わず間抜けな声を漏らしてしまう。
ちゅーと言ったか。
サエナイの頭に少し前の出来事が思い出された。
干からびていたヒメを助けた時のこと。油断していたところを突然、唇を奪われてしまいヨウコが化け物のごとく酷い顔で発狂していたが、彼女は恐らくあの時のことを言っているのだろう。
ここでその話題が出てきたのはビールを飲んで少し酔ってしまったのが原因かもしれないが、胸中ではずっと気にしていたのだろう。
「別にいやという訳ではないんですけど」
「ではキツと接吻を」
そう言いながらヨウコがじりじりと顔を近づけてくるが、サエナイは恥ずかしさのあまり顔を背ける。
その行動がヨウコの機嫌を損ねてしまったのか、眉間にしわを寄せ見せてきた。
「やはり嫌なのですね」
「だって、恥ずかしいじゃないですか……」
「キツはサエナイ様となら恥ずかしくありません」
「そ、そんなこと言われても」
またじりじりと顔を近づけてくるヨウコ。次は無理やりでもキスをしてくるかもしれない。
サエナイは早鐘を打つ鼓動を全身で感じながらも覚悟を決めなければならないのかと思っていると。
ヨウコが耳をピクピクと動かして海のほうへ目を向けた。
特に何もないように見えるが、その顔は先ほどの酔っている表情ではなく冷静な雰囲気だ。
「サエナイ様。ここから離れましょう。嫌なものを感じます」
「え?」
ヨウコの言葉にサエナイはよくわからず首を傾げたとたん、突然、穏やかだった波が強くなり始めた。
「なに⁉」
波の急変にサエナイが驚いていると。
「サエナイ様!」
ヨウコが叫んだかと思うと、数メートルの高波がサエナイとヨウコに襲い掛かった。
波に飲み込まれどうすることも出来ず、サエナイは波に連れ去られてしまう。
「サエナイ様!?」
ヨウコの声がうっすらと聞こえるが一瞬にして聞こえなくなってしまった。
(何がどうなってるんだ!?)
サエナイは何とか肺の中に残る空気を逃がさぬように両手で鼻と口を押さえ、波が落ち着いたと感じたところで目を開けた。
「⁉」
サエナイは目を見開いた。
自分がいたのは海水浴ができる浅瀬のはずだ。
しかし今見えるのは底が見えない先が暗闇の海中。あの一瞬でいったいどこまで流されたのだろうか。
とにかく急いで海面に顔を出して空気を吸わなければもたない。
腕をかき、足をおバタつかせて海面に向かって泳いでいく。
しかし。
(なんで!)
心の中でそう叫んだ。
どんなに泳いでも海面との距離が縮まらないのだ。
これでは酸素が尽きるのも時間の問題。
「⁉」
ふと後ろに目を向けたサエナイはさらに驚く。
人の腕のようなものが海の底から何本も伸びてきたかと思うと、サエナイの足を掴んでは引きずり込もうとしてくるのだ。
足で蹴とばすがひるむ気配はない。
十本を超える腕がサエナイの足に掴みかかる。
「がは!?」
激しく動いたせいで口から空気が全て抜け出してしまった。
(なん、なんなんだ!)
喉を抑えるがそんなことをしたところでどうにかなるわけがない。
目の前がぼやけてくる。
体に力が入らなくなる。
手足は言うことを聞かなくなり。
腕たちに引きずり込まれていく。
(ああ、死ぬんだ)
内心でそれを自覚し覚悟した時だった。
底が見えない海の底からひときわ大きな手が。サエナイをゆうに超える大きさの手が近づいてくると、サエナイの足を引っ張っていた腕たちが逃げるように足から離れていく。
大きな手は海中で漂うサエナイを優しく包み込むとそれは海面へ向かって伸びていき、サエナイは巨大な手によって一命をとりとめた。
「げほっ! がは!」
口から海水を吐き出しながら、朦朧とする意識の中、サエナイの耳に声が聞こえてくる。
ヨウコかと思ったが違う。
『ごめんなさいね。あの子たちは秩序を守ろうとしただけなのです。神と関係を持つ人間さん。貴方は非常に危うい立場にいることを忘れないように』
サエナイはその言葉を最後に気を失った。
「——さま! サエナイ様!」
「ん」
ヨウコがこちらを呼ぶ声が聞こえてくる。
意識が覚醒していき目を開けると、そこには目じりに涙を浮かべたヨウコがこちらに向かって必死に呼びかけてきていた。
「ヨウコさん?」
「ああサエナイ様!」
ぎゅっと抱きしめてくるヨウコ。
周囲を見渡してみれば浜辺の端の方にいることが分かる。
奥の方では多くの海水浴客たちが楽しそうに遊んでいた。
「波にさらわれたときはどうなるかと思いました!?」
ヨウコが体を震わせているのを感じる。そうとう心配していたようだ。
「……」
安心させようとサエナイは、腕を動かしてヨウコの頭を優しくなでる。
「こうして生きてますから大丈夫ですよ」
弱々しい笑みを浮かべると、ヨウコも涙目で微笑み返して来くる。
「おおい。何をやっているんだ? 姿が見えないから心配したぞ」
「何かあったの?」
アミラと優奈がこちらに向かって走って来る。
ヨウコに手伝ってもらって体を起こすと、覚えている限りを話した。
話を聞いたアミラが腕組みをする。
「先ほど、何らや感じたがそういうことだったか」
「他の神様ってことですか?」
「だろうな」
まさかこんなことになるとは思わなかったが、とりあえずは無事でよかったと言えるだろう。
日も気が付けば傾いていたため、今年の海はここでお開きとなった。
電車の中で座席に座っていた時、ヨウコが腕に抱き着いたまま眠っているのが視界に入る。
その姿を横目に、サエナイは車窓から見える海を見た。
今日のあれは何だったのか。謎は残ったままだ。
狐の嫁入り 赤花椿 @akabanatubaki
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