第6話 ヨウコ、花嫁目指して第一歩!(1)
「それでは今日はヨウコさんに家事を教えていきたいと思います!」
「よろしくお願いいたします」
リビングで仁王立ちするサエナイと、正座をするヨウコ。
時刻は朝の七時。
今日は学校が休みの土曜日。ヨウコに家事を教えるには絶好の日と言えるだろう。
朝、起こした時には眠そうな顔をしていたヨウコだったが、家事を伝授すると言ったとたんやる気に満ちた顔をしながら目を覚ました。
それほどまでにやる気ということだろう。
敵に塩を送るというわけではないが、これでヨウコが家事を覚えてしまえば花嫁になる階段を上らせることになってしまうだろう。
だが、やりたいという彼女の気持ちを無下にできるほどサエナイの心は冷たくない。
それにもし、拒否したところで食い下がってくるだろうことは容易に想像できた。
家事ができるようになったら、それはそれでいいことかもしれないし。出来ずに挫折すれば自分は嫁にはなれないと諦める可能性もある。
正直、こういうことが今までなかったので少し楽しそうだとサエナイは思っていた。
「じゃあまずは洗面所に行きます」
「はい」
サエナイの言葉に真剣な表情で頷いたヨウコは、サエナイと一緒にリビングから洗面所へ向かった。
洗面所に到着すると、サエナイは浴室の扉を開けた。
「お風呂を洗うために浴槽の残り湯を流します」
サエナイはがそう言うと、ヨウコはお風呂場に置いてあった桶を手に取った。
その行動がわからずサエナイは首をかしげる。
「ヨウコさん? 何をしているんですか?」
「残っている湯を流すのでは?」
「あ~」
ヨウコの言葉でサエナイは納得する。
彼女は残り湯を桶ですくって流すのだと思っているようだ。
「桶は使わなくてもこのボタンを押せば勝手に流れてくれるんですよ」
そう言って浴槽の端にあるボタンを指し示す。
ヨウコはボタンに顔を近づけながら首をかしげる。
「これを押せばいいんですか?」
「押してみてください」
ヨウコはサエナイに言われるままボタンを人差し指でグッと押し込んだ。
すると、浴槽の底にある栓が開き、残り湯が流れ始めゆっくりとお湯がなくなっていく。
その様子を見たヨウコは尻尾を振りながら興奮気味な調子を見せる。
「これは! サエナイ様は天災ですか!?」
「いや、考えたのは俺じゃないんですけどね」
苦笑気味に頬をポリポリとかく。
ヨウコは湯が流れていく様子を眺めていたいのかもしれないが、家事はまだまだこれからなのだ。
ヨウコの背中に声をかける。
「次に行きましょう」
「ここを洗うのでは?」
ヨウコの言う通りサエナイは確かに風呂を洗うといったが今ではない。
「お湯が全部流れるのに時間がかかるので、お湯が全部流れるまでの間にほかのことをやります」
サエナイの言葉にヨウコは納得がいったのか頷いた。
「無駄な時間をなくすということですね?」
「そういうことです」
ヨウコの言葉に頷いて次にやることは。
「洗濯です」
サエナイがそういうと、ヨウコは周囲をぐるりと見渡した後に首をかしげる。
「洗うための物がどこにも見当たりませんが?」
洗濯板か何かを探していたのだろうか。
サエナイは「ふ」とわざとらしく鼻で笑って見せると、自分の横に置かれた巨大な洗濯機を指さした。
「これで洗うんです!」
「これは!?……何でしょうか?」
洗濯機を指でつつきながら難しい顔を見せるヨウコ。
これはお手本を見せたほうが早いだろうと考えたサエナイは、実際にやって見せる。
「まずはこの大きなボタンを開けて、洗濯機の蓋を開けます」
「おお~」
ボタンを押すと、ぱかっと洗濯機の蓋が開く。それを見てヨウコはまた興味津々な顔に染まった。
続いてサエナイは洗濯籠に入れていた洗濯物を両手でガバッと掴み、それを洗濯機の中に入れてみせる。
そして洗濯機の蓋を閉めると、洗面所の収納棚から液体洗剤を取り出し、適量を洗剤の投入口に入れ、洗濯機の電源を入れてスタートボタンを押して完了。
「これで勝手に洗濯してくれます」
「なんと!? 一つ一つ手で洗うものをこれが一度で洗ってくれるのですか!?」
「量が多いと流石に分けてやりますけど、基本的には一回で済みますね」
「ほ~」
透明な蓋から、中でぐるぐると回る洗濯物をしゃがみ込んで見つめるヨウコ。
「ぐるぐると面白いですね」
「凄いですよね」
ははと軽く笑うサエナイ。
「楽しそうですね」
「……入らないでくださいよ?」
「……」
サエナイの言葉を聞いて、ヨウコは何も言わずサエナイの顔を見てニコリと笑む。
「本当に入らないでくださいよ!?」
ヨウコの反応にサエナイは、急に怖くなったのだった。
場所は変わって台所。
「朝食にしましょう」
「食べたいです!」
先ほどよりもテンションが上がるヨウコ。
「今日はお米とみそ汁と納豆にしますかね」
「どれもおいしそうです!」
尻尾をブンブンと勢いよく左右に振るヨウコにサエナイは思わず苦笑してしまう。
自分より身長が高くスタイルも良い、そんな大人にしか見えない彼女がこんなにも幼い子供のようなギャップのある反応を見せてくるのだ。
「可愛い……」
「今何か言いましたか?」
「何でもないですよ?」
かなり小さい声で呟いたつもりなのだが、彼女の自慢な狐耳が声を拾っているのだろう。
発言には気を付けなければ。
サエナイは気を取り直すように「コホン」咳払い意を一つ。調理器具をしまっている棚から小さな鍋を一つ取り出して、その中に水を入れるとコンロの上に置いて火をつけた。
「……」
サエナイの一連の動きをヨウコは黙って見つめては、コンロから出る日をじっと眺めている。
「火力はこれでいいのですか? 弱くありませんか?」
ヨウコの言葉にサエナイは首を傾げた。
「それで十分ですよ? あんまり強いと火事になっちゃいますよ」
「そうですか」
そういってコンロの火を見つめている。
「あんまり近いと髪が焼けちゃいますよ?」
好奇心旺盛なのはいいことかもしれないが、余りに夢中になるのもいいことではない。
ヨウコの長く細い髪と、頭上の狐耳の毛が焼けてしまわないか心配になる。
「そうですね」
ヨウコはサエナイの忠告を素直に聞き入れると、火を見るのをやめて立ち上がる。
「キツに何かお手伝いできることはありますか?」
「そうですね。箸を二人分。そこの引き出しから」
サエナイが指さした引き出しを開けたヨウコは、首をかしげる。
その様子を見るに、箸がなにかわからないのだろう。
「棒状のものを四本出して、それをテーブルの上に二本ずつ並べてください」
「これを箸と言うのですね」
ヨウコは箸を二人分。計四本を手に取ると、リビングのテーブルの上に並べた。
「サエナイ様! 終わりました!」
頼まれた仕事を一つ終えて嬉しそうな子供のような調子で戻ってきたヨウコは、さらに仕事がないかと聞いてきた。
サエナイは、あまりのギャップに口がニヤけそうになるのを必死でこらえながら、冷蔵庫から小さな白いパックを二つ取り出して、それをヨウコに手渡す。
受け取ったヨウコはまた首をかしげて見せる。
「これは何ですか?」
「納豆ですよ」
「なっとう?」
ヨウコは納豆のパックを自身の鼻に近づけて、スンスンと匂いを確認すると顔を少し歪めた。
「何やら嗅いだことがない匂いがします」
「まあ、好き嫌いが分かれるものですからね」
嗅いだことのない匂いのせいか、心配そうな顔をしながらテーブルへと運んで行った。
その間にサエナイは冷蔵庫から食材を取り出して、みそ汁を作っていく。
一口サイズに切った豆腐にワカメと油揚げを入れ、味噌を溶かす。
みそ汁は簡単な料理であるため、短時間で出来上がった。それをお椀によそいで。
昨日のうちに炊いておいたご飯をお茶碗によそいでテーブルへ持っていく。
「それじゃあ食べましょうか」
「いただきます」
ヨウコは手を合わせてまず最初にみそ汁を一口飲む。
「なんだか落ち着きますね」
「気に入ってくれてよかったです」
サエナイは微笑みながら納豆のパックに手を付ける。
その様子を見たヨウコもサエナイに倣うように、納豆のパックに手を付けて蓋を開ける。
蓋を開けてことによって納豆の匂いが、ヨウコの鼻腔に刺激を与えたでヨウコは一瞬顔をしかめた。
「ど、独特な匂いですね。これを人間は日ごろから食べているのですか?」
ポーカーフェイスを頑張っているのだろう。ヨウコの頬がぴくついている。
サエナイは幼いころから納豆の匂いを嗅いできて慣れてしまっているため、何とも思わないが、ヨウコの反応は納豆を初めて見た外国人と同じような反応のそれだった。
何となく感心した。ヨウコは人の姿をしているとはいえ正体は狐だ。そんな彼女の反応は面白いと思ったサエナイ。
そして、コロコロ変わる美女の顔は可愛らしいとさえ思ってしまう。
サエナイは納豆のパックについていた醤油を納豆にかけて、箸でかき混ぜていく。
ヨウコも見様見真似で醤油を納豆にかけて箸でかき混ぜる。
かき混ぜられた納豆は粘々し始め、かき混ぜ終わったころにはいい具合の粘り気になっていた。
ヨウコはというと、最初は普通の顔をして混ぜていたのだが、納豆に粘り気が出てくると同時に表情がだんだんと歪んできて、最終的には顔面蒼白に。
納豆の発酵した匂いに粘り気のダブルパンチ。ヨウコの手は止まっていた。
毒ではないし、むしろ体にいいものだが、嫌いかもしれないものを無理に食べさせるほどサエナイは鬼ではない。
「ヨウコさん。やめておきましょうか。それは代わりに食べますから」
サエナイの言葉にヨウコは首を左右に振る。
「い、いいいえ、まだ食べてもないのに残すのは。見た目だけで判断するのは良くありません。食べてみれば美味しいかもしれませんし」
コーヒーの時と似たようなやり取りをしている気もするが、ヨウコが挑戦しようとしているのなら、何も言わず見守ってみよう。
彼女の言う通り、食べてみれば平気かもしれない。
「これはどのように食べるのですか? このまま食べればいいのですか?」
「ああ、ご飯の上にかけて食べるのが一般的です」
そういってサエナイは自分の納豆をお茶碗に盛られた白米の上にかけて見せる。
「うわあ……」
糸を引く納豆を見て、顔を歪めるヨウコ。
口から思わず嫌そうな声が漏れてしまっていることに、本人は気が付いていないようだ。
ヨウコの反応に苦笑しつつ、サエナイは納豆をご飯にかけ終えて、箸ですくい上げて口に運ぶ。
サエナイの口に運ばれる間も糸を引く納豆に、変顔の域を超えた顔で見るヨウコのそれは、美人というにはほど遠いものだった。
「こんな感じで食べるんですよ」
口に入れた納豆ご飯を飲み込んだサエナイは、ヨウコを見つめる。
食べてみれば違うかもしれないと言っていたヨウコだが、いまだに酷い顔をしたままの彼女を見るに、食べても納豆に対する印象は変わらないのではないかと思う。
ヨウコはサエナイの手本を見て、ご飯の上に納豆をかける。
あとは出来上がった納豆ご飯を口に運ぶだけだが、ヨウコの箸を持つ手が動かない。
はやり食べる気が起きないかとサエナイは悟ったが、ヨウコはサエナイに目を向け。
「箸の扱い方を教えていただけませんか?」
どうやら箸の使い方が分からず手が止まっていたらしい。確かに先ほど箸を持っていくようお願いした時、箸を初めて知ったようだった。
「今スプーンを用意しますね」
サエナイは立ち上がると、台所からスプーンを持ってきてヨウコに差し出す。
ヨウコは「ありがとうございます」と礼を口にしながらスプーンに持ち変えると、数秒のあいだ納豆と睨み合うと、意を決してスプーンで納豆ご飯をすくい上げた。
納豆の粘り気によってできる糸に頬をぴくつかせながらも、口に運んだ。
数回咀嚼して目を見開くヨウコだが、そのあとは微妙な顔を見せながら納豆ご飯を飲み込んだ。
「どうですか?」
思わず尋ねるサエナイ。
ヨウコはみそ汁を一口飲んで口を開く。
「味は悪くないのですが、どうもあの粘々した感触が苦手です」
人によっては納豆独特の味がだめだという人もいるが、味は平気なようだ。
その後、ゆっくりではあるがヨウコは見事納豆を平らげた。
そんなこんなありながら朝食を済ませた二人は、本題の家事に取り掛かるべく、脱衣所のほうへ戻ってきていた。
「まずは風呂洗いをしましょう」
「はい」
やる気に満ちた様子を見せるヨウコに、サエナイはスポンジとお風呂用洗剤の入ったスプレーを手渡す。
「お風呂場の床や壁と浴室を、洗剤を吹きかけてからそのスポンジでこすって洗って行ってください」
「この容器に入った液体を撒いてこのふわふわしたスポンジというもので洗えばよいのですね? キツにお任せください!」
自信満々な様子で浴室に足を踏み入れ。
「ここを押すと洗剤が出てくるとは、人間は面白いものを作りますね」
感心しながら洗剤を吹きかけると、スポンジでこすり始めた。
ヨウコがお風呂場を洗っている間に、サエナイは家のシャッターを開けたり玄関の掃き掃除をしたりしていく。
流石に今日で家事の全部を教えきることはできないだろう。
そのため、ヨウコには大きな仕事を教え、それをこなしている間にサエナイは別のことをやる。
それに、その日だけでは覚えられないものもあるのだから。
サエナイが別の家事をやっていること数十分。
「サエナイ様! 終わりました!」
大声で自分を呼ぶ声が聞こえ、お風呂場に行くと。
「ヨウコさん」
「なんでしょう? はっ、まさか何か間違っていたでしょうか?」
ヨウコは自慢の狐耳を垂らして不安そうな顔を見せる。
うん、可愛い。サエナイはそんなことを胸中で思いながら、苦笑いを浮かべた。
「別に間違ってはないんですけど」
サエナイはヨウコの後ろを指さした。
「尻尾が泡まみれです」
「夢中で気が付きませんでした」
ヨウコの立派なキツネの尻尾は洗剤の泡に包まれていたのだ。
気が付きそうなものだが、それほどまでに洗うことに夢中になっていたとは。
ヨウコは恥ずかしい一面を見せてしまったことに、ほんのりと頬を染めて上目遣いでサエナイを見つめ。
そしてその様態でヨウコが放った言葉にサエナイは目を丸くする。
「あの~、お恥ずかしいのですが尻尾を拭いていただいてもよろしいですか?」
「え?」
彼女は今なんといったか。泡まみれになってしまった尻尾を自分に拭いてほしいと頼んできたように聞こえたのだが。
ヨウコの様子を見て先ほどの頼みが聞き間違え出ないことを自覚するサエナイは内心で焦る。
まさか。そのモフモフの尻尾を拭いていいのか。拭いていいということは、モフモフを堪能できてしまうということではないか。そんなことが許されていいのか、いや許されるはずがない。しかし、彼女からお願いされたということは許されているということ。美女の、狐の大きくてモフモフな尻尾に触れてしまうなど、男子高校生で思春期真っ盛りな自分が理性を保てるか分からない。下手をすれば本能に任せて尻尾に顔を擦り付けてしまうかもしれない。結婚を拒んでおきながら今になってそんなことをしていいはずがないのだ。まあ同棲を許してしまっている以上、拒み切れていないのだが。毎回毎回ヨウコさんの言動に可愛いと思ってしまい、挙句の果てには声に出してしまう自分が。
「サエナイ様?」
「は!?」
いぶかしむヨウコに名前を呼ばれて我に返ったサエナイはヨウコを見る。
そうだ正気に戻るんだ。何をしているんだ。彼女はただ尻尾を拭いてほしいと頼んでいるだけではないか。
それに彼女に対してよこしまな考えなど失礼にも程がある。
サエナイは全力のポーカーフェイスで微笑む。
「わ、わかりました。拭きますね」
棚に畳んであったバスタオルを一つ取り出して広げる。
それを見たヨウコはサエナイが拭きやすいように尻尾を向けてきた。
サエナイは深呼吸をして心を落ち着けると、ゆっくりバスタオルを近づけていき。
バスタオルで優しく尻尾を包み込んだ。
タオルの上からでもわかる圧倒的なモフモフ感。犬や猫の尻尾では味わうことのできない新感覚。手だけでしか感じていないにも関わらずまるで包まれるかのような心地よさ。
これが、これが、神様の尻尾か。
もう今すぐにでも天国へ行きけるのではないかと思いながら、優しく尻尾を拭いていた時。
「あ、ん」
「!?」
サエナイはヨウコの口から漏れた声に、ドキリと体を震わせ天国から引き戻されて緊張が全身を包み込んできた。
サエナイは震える声を漏らす。
「ど、どうしました? 何かまずかったですかね? 今の声はわざとですか? わざとですよね? わざとだと言ってください」
色っぽい声にサエナイは思わず強い口調で言ってしまう。
ヨウコは申し訳なさそうな顔を見せる。
「不快にさせてしまったのであれば申し訳ありません」
「い、いいえ! 不快ではないんですけど、どうしたのかなと思いまして」
慌てて訂正するサエナイに対し、ヨウコは少し安堵をした様子と、恥ずかしそうにしながら口を開く。
「尻尾を誰かに触られるのは慣れていなくて、自分が触るときとは違う感覚に思わず驚いてしまって。自分で尻尾を拭こうにも後ろなので拭きずらくて」
「そうですか」
それならば仕方がないだろう。サエナイは納得しつつ内心で困っていた。
尻尾の大体は拭き終わったが、まだ泡が付いている部分が残っている。つまりヨウコの口からまた声が出てしまうかもしれないということで、サエナイの精神に悪影響を及ぼしかねないのだ。
先ほどヨウコの口から漏れた声が耳の中に残っている。無理やりほかのことに意識を集中させるのは不可能。
ただでさえ自分だけ気まずい状態なのにそこから追い打ちが来るなど絶体絶命。
あとは自分で拭くようにと言って退散することはできるが、ヨウコは自分では拭きにくいと言っていたし。ここまでサエナイが尻尾を拭いておきながら今更逃げれば、ヨウコに自分が意識していたことがばれて変態と思われてしまいかねない。
ならば逃げるわけにはいかない。最後まで責任をもたなければ。
サエナイは唾をゴクリと飲み込み、震える手を動かして残りを優しく拭いていく。
「んっ」
「……」
ふきふき。
「は」
「……」
ふきふき。
「あ」
「……」
今の自分の顔をヨウコに見られないように注意を払いながら拭いていき、時間にして短かったが、長い戦いを終えたような気持でサエナイは息を吐き出した。
使い終わったタオルを洗濯物籠に入れる。
「サエナイ様。ありがとうございました」
「いえいえ。少し休憩にしましょう」
必死なポーカーフェイスをしながら休憩を提案すると、ヨウコは首を傾げた。
「まだお風呂洗いしかやっていませんが? 時間もそれほど経っていないようですし」
「いえ、休憩にしましょう」
「わかりました」
何やらサエナイから圧を感じたヨウコは、そうしたほうがよさそうだと思い頷いた。
サエナイは洗面所を出てリビングに行くと、ソファーにうつ伏せの形でダイブした。
「はあ、マジ無理~」
精神が疲れ切ったサエナイは、そのまま三十分ほど仮眠を取ったのだった。
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