第40話 調査の結果


 陸奥へ来てから、三日目。


 御当主様の意向により、調査は時刻を定め三名一組で行うことになった。


 赴くのは全体の六分の一程で、残された者は屋敷で待機。


 待機組にはスサノオだけでなくツクヨミも含まれており、御当主様も地図を眺めては報告を受け、何かを書き込んでいる。


 長丁場になると踏んだらしいとは、洗濯をしている合間に聞こえた兵達の言葉。


 その方針が正しいのかは、分からない。


 けどスサノオの体が休まることに違いはなく、あたしにはそれで十分だった。


 ただ世話役の同行も不要となったのは、少しだけ残念。


 久しぶりに山の空気を感じてみたかったのと、山女を見返してやりたかったから。


 意気揚々と付いていった山女は、今げっそりしている。


 何でもナメクジが苦手だったらしく、この時期山で大量に発生するそれらを目にし、早い段階でお荷物になったらしい。


 ざまあみろと心の中で思ったあたしは、忌子だとしても許されるよね?



 それから何事もなく時は過ぎ、陸奥で迎える二十日目の朝。


 この日、あたし達は御当主様から急遽屋敷の庭へ集められた。


 庭の周りの田んぼには、泥田坊達もひしめいている。


 兵達の会話に聞き耳を立てていたけど、変化と呼べるようなものはなかったと思う。


 一体、何の話をされるのだろう……。


 周囲の騒めきが、不安を煽る。


「クシナ」


 そんなあたしを気遣うように、スサノオが手を握ってくれた。


 向けられた黒い瞳に、動揺は見えない。


 体力はともかく、調査から自力で戻ったことといい、男の子の成長は早いなあ。


 嬉しさと、自分の手を離れ遠くへ行ってしまうような寂しさを感じる。


 世話役の分際で、そんな風に思うのは烏滸おこがましいのだろうけど……。


「静まれっ!」


 物思いに耽っているところへ、侍従頭の唐突な一喝。


 しかしその迫力は凄く、たった一言で周囲を黙らせてしまった。


 辺りが静まり返る中、座敷の奥から御当主様が現れる。


 皆が固唾を吞んで見詰める中、御当主様は淡々と現状を語った。


「我らは初日から調査を続けているが、未だ魔物の姿を見ておらぬ。群れの数は百に届くという報告を考えれば、おかしなこと。いや、異常と評してもいいだろう」


 兵達が無言で、力強く首肯する。


 どうやら、思っていたことは同じだったらしい。


「しかし、泥田坊らは偽りを申しておらぬ。その点はゆえ、心配要らぬ」


 その言葉には、妙な説得力があった。


 兵達は即座に信じたようだけど、しかし鵜呑みにした感じでもない。


「加えて、山で生きる獣や鳥の姿も見えぬ。魔物に食われた可能性もあるが、その後繰り返し調べても、確認できておらん」


 これには兵達より、泥田坊達が衝撃を受けていた。


 里山を知るあたしも同様。


 山には、多種多様な生き物が生息している。


 それらが一斉に、継続して姿を消すなんて、山火事や天災でも起きなければ……!?


 あたしは思い浮かんだという言葉が、現状と妙に符合することに気付いた。


 まさか……。


「どうやら、未知の魔物が山に巣食っておるようだ。しかも初日から今まで、我らにだけは手出しをしない点を踏まえると、知恵を持つ上位の魔物が生まれている可能性がある。存在を気取られぬ程の力を持った、な」

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