第38話 帰還
陽が沈み、いつもなら夕餉にしている時間をとうに過ぎた頃。
灯りを掲げ、御当主様達が屋敷へ戻ってきた。
あたし達も灯りを点け出迎えると共に、急いで湯を沸かす。
皆汗や土で汚れているけど、日頃鍛えているせいか疲れた様子は見えない。
それはツクヨミも例外ではなく、体の大きな兵達に交じりしっかりと歩いている。
ただ、スサノオだけは立っているのもやっとな感じだった。
兵達はその姿に嘲笑を向けると同時に、対照的なツクヨミを誉めそやす。
御当主様は静かに眺めるだけで、口を挟む気配はない。
「家族なのに……」
悲しさと怒りが混ざり合い、自分の境遇を棚に上げた言葉が漏れる。
家族への期待など、あたしは早いうちに捨てたはずなんだけど……。
それでも、スサノオの扱いを目にしたら感情を抑えられず。
世話役全員で兵達を労う中、あたしは湯の入った桶と竹水筒を持ちスサノオの許へ向かった。
幸いあたし自身が忌子として疎まれているので、誰も何も言ってこない。
スサノオは屋敷の庭へ着くなり、腰を下ろし息を荒くしていた。
見たところ、怪我はしていないようだね。
ほっと安堵しながら身を屈め、あたしは湯に浸けた手拭いを絞りスサノオの顔を拭いた。
俯き気味だったスサノオが、顔を上げる。
「お帰りなさい」
返事をしようと、小さな口を懸命に開くスサノオ。
けど上手く声を出せないようだった。
汗をかき過ぎ、渇きに喉がひりついているのかもしれない。
あたしは水筒をスサノオの口元に当て、徐々に傾けた。
「焦らず、少しずつ」
咽せないよう細心の注意を払っていると、スサノオは途中から自分で水筒を掴み、時間をかけて飲み干した。
「ありがとう クシナ」
細い声が、疲労の濃さを窺わせる。
結局、その日は
示し合わせたかのように、スサノオには声が掛からない。
恐らく、侮られた結果なんだろう。
ツクヨミは明け方の番を任されていたしね。
それでもあたしは、スサノオがゆっくり休めることをありがたいと思った。
何しろ陸奥へ来て、まだ初日なのだから。
寝床の用意に向かう際、ふと視界に入ったのは御当主様の姿。
夜番をするよう言い渡し、それきり無言で
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