第36話 異変の訴え
茅葺屋根の屋敷は中央に大きな物が一つと、二回り小さい物が五つ、板張りの廊下で繋がる構造になっていた。
屋敷の前の庭は広く、朧車と荷車十数台が余裕で停まることができる。
テンマルさんを労い、あたしは他の世話役に交じり荷解きを。
食料の類は少ないけど、随伴するツルギ家の兵が数十名おり、その武器や防具だけで相当な数になっている。
武器や防具は一つ一つが重く、積み下ろすのも一苦労だ。
噴き出る汗を拭い作業を続けていると、朧車の
スサノオの顔色は悪く、旅へ出る前と比べ明らかに頬がこけている。
その変化を、あたしは世話役として日々把握していた。
けど、何もできなかった。
声を掛けても励ますには至らず、食事を工夫しても箸の進みは遅くなるばかり。
痛ましい姿に胸が締め付けられ、もう帰ろうと口にしたのは一度や二度じゃない。
それでも、スサノオが首を縦に振ることはなかった。
黒い瞳に、確かな意志の光を覗かせて。
屋敷での滞在で、少しでも元気になってくれたらいいんだけど……。
御当主様達は屋敷で一休みした後、庭へ集まった。
荷解きを終え、休むことなく食事の準備に取り掛かっていたあたしは、何事かと眺めていたら庭を囲む田んぼから茶色い妖しが姿を現した。
その妖しは半裸の
田んぼから出てきたところを見るに、テンマルさんが言っていた泥田坊かな?
泥田坊は真っ直ぐ御当主様の前へ行くと、地に両手をつけ、深々と頭を下げた。
「遠路はるばる、ようこそおいでくださいました」
「務めだ、気にする必要はない。それに青都の食を支えるこの大田園に何かあれば、都長が荒ぶるであろうからな」
「それは、大変危のうございますな……」
「全くだ。以前、高官の不手際で水害が拡大した時など、怒り狂った都長の手により小山が一つ消し飛んだ」
山が消し飛ぶ……。
一体どれだけ強ければそんなことができるのだろう。
あたしには想像もつかない話に呆然としていたら、一段声を低め御当主様が続けた。
「ゆえに、気掛かりあらば
有無を言わせぬ、その口調。
既に何かを知っていながら、敢えて説明させる圧のようなものが滲み出ている。
「っ!」
泥田坊が更に頭を下げ、地につけたまま話し始める。
くぐもって聞き取り辛くなったけど、その内容はただならぬもので。
「群れをなす魔物、か……」
御当主様の呟きに兵達が緊張するのを目にし、あたしは否応なく不安を掻き立てられた。
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