第35話 大田園陸奥
朧車はその見た目とは裏腹に、とても優雅に走った。
それでいて、速度はテンマルさんと遜色ないから不思議だ。
あたし達は、青都を出た後街道を南東へ進み、幾つもの山や川、野を越えた。
川は雪融けにより豊かな水量を誇り、山は新緑に覆われながら、薄紅色をした山桜が点在し彩りを加えている。
久しぶりに見た野山の景色に、少しだけ懐かしさを感じた。
里を出る時の旅は殆ど野宿だったけど、今回は公の仕事ということもあり、泊まる場所は街や農村で手配済。
山に近い場所はまだ肌寒く、これには正直助かった。
あたしは相変わらず他の世話役から嫌われているけど、そんなのは些細なこと。
御当主様がいる状況で、大した嫌がらせもできないようだしね。
気掛かりなのは、スサノオだ。
食事や泊まりの用意で顔を合わせても反応は鈍く、目は虚ろ。
初めて会った頃に戻ったようで、気が気ではなかった。
何しろ、移動の間は御当主様とツクヨミと一緒なのだ。
スサノオに聞いたところ、ツクヨミは双子の妹らしい。
御当主様の反応は読めないけど、ツクヨミがスサノオを放っておくはずがない。
勿論、悪い意味で。
心配になり尋ねても、スサノオは何も話してくれなかった。
おかげで、あたしの不安は増すばかり……。
出立してから、十日。
鬱蒼とした樹々の間に造られたぐねぐねとした道を抜けると、一面の田んぼが広がっていた。
「ここが青都の大田園、
田んぼは里にもあったけど、平らな土地が少なく限られた場所にしかなかった。
それが見渡す限りに造られている。
加えて、山肌も段々になるよう整え田んぼにするという徹底ぶり。
「あれは棚田って言うんだぞこんにゃろー!」
テンマルさんが親切にも教えてくれた。
「棚田……魚の鱗みたいだね。重なる感じに、数といい。あんなに沢山あったら、育てたり収穫するの大変なんじゃ?」
素朴な疑問を口にすると、
「
あっさり言い切られた。
泥田坊……名前からして、田んぼにまつわる妖しかな?
朧車とテンマルさんはそのまま進み、遠くにある
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