第27話 スサノオの覚悟
スサノオと一緒に家事をするようになってから、五日後。
できるだけ意識しないようにしていた、
仕事だと割り切ろうとしても、気が重い。
そんな心の内を表したかのように、ぶ厚い雲が空を覆っている。
里にいた頃、稀に降る激しい秋雨の時は野良仕事をせずに済んだけど、これはそうもいかない。
「はぁ……」
何度目かの溜息を吐いていると、スサノオがあたしの袖を引っ張っていた。
黒曜のような瞳に感情の色は見えずとも、心配してくれているのは何となく分かる。
「大丈夫だよ」
ただでさえ下手くそな笑みが、今は更に酷くなっているだろうなと思いつつ、スサノオの頭を撫でる。
少しは安心してくれたのか、スサノオが袖から手を離し、縁側へ向かって行った。
ここ数日で、だいぶ心を許された……と思う。
それでも十日前に垣間見た、スサノオの瞳の奥に宿る憎悪の炎を思うと、怖気付いてしまう。
以前はあたしが
「はあぁっ…………」
より深い溜息を溢し、体と短刀を清め必要な物を持ち、既に待機しているスサノオの許へ赴く。
スサノオは正座し、あたしを真っ直ぐに見詰めていた。
その目に何かしらの想いが浮かんでいたら、あたしもどう向き合うか定まるのだけど……。
いや、それは身勝手な考えだね。
仕事とはいえ、これからスサノオを傷付けるあたしの方が揺らいでどうする。
自分の頬を両手で叩き、気を引き締める。
スサノオの袖を捲り、腕を酒で拭く。
あたしは深く呼吸した後、思い切って短刀を振り上げ、そして…………下ろせなかった。
出会ってからまだ一月と経っていないけど、すっかり情が移っている。
それこそ、元親よりも遥かに……。
決め事を守れず、侍従頭に始末されるかな? まあ、仕方がないか。
売られた時、どうにでもなれと思っていたあたしだ。
これ以上スサノオの心身に傷を負わせるくらいなら、あたしが背負う。
たとえそれが、文字通り命懸けの行為だったとしても。
覚悟を決め鈴を鳴らしに行こうとしたあたしを、けどスサノオが止めた。
「クシナ」
小さく首を横へ振り、短刀を握ったままのあたしの手に触れる。
荒れのない細い指先が、思いがけず強い力であたしの指を解いた。
床に落ちる、短刀。
スサノオはそれを拾い上げ、言葉を探すように口を何度も開いては閉じ、
「ありがとう」
そう言って、躊躇なく自分の腕を短刀で刺していた……。
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