第9話 見せ棚


 洗浄という名の戦場を潜り抜け、あしたちは容易された服に着替えさせられた。


 膝丈まである麻の薄い衣だったけど、これまであたしが着ていた継ぎ接ぎだらけの襤褸よりずっと良く清潔で、素直に喜んだ。


 それから一刻いっとき程、休憩が与えられ、庭の木陰で思い思いに休んだ後、店の中へと案内された。


「おお、皆ちゃんと綺麗になっとるね!」


「ああ、ばっちり磨いたよ!」


 二匹のブンブクさんの掛け合いに、遠い目をしているのは例の子供達。


 友達でも何でもないけど、未だかたかた震える様子に少しだけ同情した。


「ではこっち来ておくれ」


 ブンブクさんに案内されたのは、土間に面して作られた格子で囲われた部屋。


 里にあったならず者を捕らえておく牢屋に似ているが、こちらの格子の支柱は細く、間隔も空いている。


「ここへ嬢ちゃん達を買いに、お客さんが来る。その時は愛想良くして出迎えるんよ? あっしも精一杯売り込みけど、嬢ちゃん達の印象も大事だからね」


 なるほど、ここは店の棚なのか。


 棚に並ぶ商品は、あたし達。


 旅の間が自由過ぎてあまり実感がなかったけど、格子の中から土間を眺めると、売られたんだと改めて実感した。


 と言っても、家や里を懐かしむ感傷は既に無い訳で。


 言われた通り、愛想良くというのをやろうと思ったけど、これが中々難しい。


 どうすれば愛想が良くなるのだろう……。


 一先ず周りを見ると、反対側で同じように格子の中に居た女郎蜘蛛じょろうぐもの女が、唇の両端を少し上げ、店内のお客さんに笑みを向けていた。


 なるほど、笑えばいいのか。


 あたしも真似て口の端をぎこちなく上げてみると、お客さんから目を戻した女と目が合い、


「ひいっ!」


 と悲鳴を上げられた。


 失礼な、ただ笑みを浮かべただけなのに……。


「嬢ちゃんのそれは……うん。獲物を前に舌舐めずりする、獰猛な獣みたいだね」


「そこまで酷い!?」


 裸にされて恥じらいはなかったけど、さすがに今の言葉には衝撃を受けた。


 一応これでも女なのだけど……。


 いや、自分で前置きしている時点で手遅れなのか…………。


 項垂うなだれるあたしを見て、ブンブクさんが笑う。


 けど、唐突にその笑い声が止まる。


 何事かと思い視線を向けると、店の入り口に笠を被った大柄な男が立っていた。

 

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