第8話 洗浄無情


「うえぇんっ」


 雪女の子供が、泣いている。


「うぐ、ふぐぅっ」


 山男の子供も、泣いている。


 しかも雪女より体の大きい山男の方が、激しく泣いていた。


 時折母親らしき名前を読んでいるあたり、見た目以上に幼いのかもしれない。


 勝手口に回った後、あたし達を待ち受けていたのは、紅ブンブクさんによる容赦の無い洗浄だった。


 無患子むくろじという実の果皮は、水に浸すと泡が立つ。


 糸瓜へちまのたわしをそれで濡らし、紅ブンブクさんは力一杯あたし達の体を削り……磨き始めた。


 その痛みに悲鳴を上げ、実際泣いてしまったのが雪女と山男の子供だ。


 もっとも、雪女の方は店の裏庭で男女の区別なく裸にされたことの方が、堪えたように思う。


 洗われる前の方が、激しい抵抗を見せ泣き叫んでいた。


 あたしは見せて恥ずかしいような体をしていないので、気にならない。


 ただそれは誇れるという意味ではなく、貧相な体だからという理由だけど……。


 この十日間、家に居た時よりしっかり食べられたおかげで、多少肉は付いたと思う。


 なのに、あたしより幼い雪女に明らかに負けている。


 くっ、これが種族の差……いや、元姉はしっかり膨らみがあったから、単にあたしだからか。


 起伏の少ない体を見下ろし溜息一つ吐いていると、鬼熊の子供がぽんと肩を叩いてくれた。


 熊っとした厳つい容姿だけど、案外優しい。


 というか今の気遣いからして、実は女の子だったのか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る