第7話 ブンブク二匹


 東門を潜ると、長屋が数棟入りそうな広い通りが延びていた。


 そして通りには華やかな衣装を扱う呉服屋、美味しそうな団子を出している茶屋、細工の見事な小間物屋こまものやが立ち並び、色んな種族の者でごった返している。


「凄い……」


 あまりの活気に、思わず感嘆の声が漏れた。


 里では年二回、春に田畑の豊作を祈願する祭りと、秋に収穫を感謝する祭りがあったけど、比べ物にならない程の賑わいだ。


「ブンブクさん、今日って何かの祭りなの?」


 そう尋ねるとブンブクさんは首を傾げ、少し経ってから得心したように手を打ち笑った。


「あははは! 嬢ちゃん、青都ではこれが日常なんよ。本当に祭りの日だったら、呑気に大通りを走ることはできんからね」


「こっちは真面目に走ってんだぞこのにゃろー!」


 呑気という言葉に、すかさずテンマルさんが反応する。


 うん、今のはブンブクさんが悪い。


 その後ブンブクさんは謝り続け、最終的に鼠の串焼き十本で手打ちとなった。



 大通りを都の半分辺りまで進むと、一軒の店の前でテンマルさんが足を止めた。


 周囲と同じ燻んだ緑色の屋根に、他より広い店の造り。


 ブンブクさんによると、屋根が緑色なのは銅が時間を掛けて変化した色らしい。


「さあ着いたよ。ここがあっしの店、“茶釜ちゃがま”だ」


 ブンブクさんに続きテンマルさんから降りていくと、店の奥から誰かが駆けてきた。


「お帰りあんた!」


「ただいま、無事帰ったよ!」


 ひしと抱き合うのはブンブクさんと……同じ妖狸ようりの方?


 見た目がそっくりで、側から見ている見分けが付かない。


 ただ、よ〜〜く見たら片方の頬に薄らべにが差している。


 こっちの紅ブンブクさんが、奥さんなのかな。


「積もる話はあるが、まずはこの子らを身綺麗にしてやってくれんかね」


「あいよ。お客さんの邪魔にならんよう、勝手口へ連れてやっとくさね」


 そう言ってテンマルさんの喉を撫でながら、紅ブンブクさんが小道を通り店の裏へと回る。


 この時、荷車に乗るあたし達は知らなかった。


 身綺麗にという、その意味を……。

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