第6話 青都
テンマルさんに乗り旅を続けること、十日。
途中幾つかの里を巡り、ブンブクさんはあたしと同じように子供を買った。
歳は一番幼い子で六歳程だろうか。
年長は十の後半に差し掛かっていそうだった。
内訳は男が三、女があたしを入れて五。
乗り合いが増えたことで、最初はのんびり伸ばせていた足も畳まざるをえず、今は膝を抱えて座っている。
それで荷車が、ほぼ隙間なく埋まった。
こう互いに近いと、嫌でもその表情が見えてしまう。
皆、一葉に表情が沈んでいる。
売られた上に、この先どんな扱いをされるか分からないのだから、無理もないか。
あたしと言えば、日頃の扱いと別れがあれだっただけに、なるようになれと気楽に考えていた。
ただまあ、一つ鬱陶しいのが周りの子らが向けてくる視線。
雪女や山男、鬼熊と種族はまちまちだが、あたしを見る度、暗く笑うのだ。
何を思っているかは、想像が付く。
この中で、白の忌子はあたし一人だけ。
恐らく自分より下の奴がいることに、安堵しているのだろう。
内心、嘲っているのだろう。
なんとも滑稽な話だ。
あたしを低く見たからといって、売られた自分の価値が上がる訳じゃないだろうに……。
そして里を出てから十日目の今日。
前方に大きな都が見えてきた。
「あれが目的地。根の国東部最大の都、
ブンブクさんにとっては、久しぶりの帰郷になるのだろう。
いつもにこにこしているが、心からの笑みが混ざっているように思う。
実際、道中危ないこともあったしね。
といっても、野盗や山賊に襲われたことじゃない。
そっちはテンマルさんが突撃し、蹴散らしていたから。
危なかったのは魔性の物、魔物に遭遇したことだ。
魔物とは獣や虫、果ては植物が異形と化した存在を指す。
未だになぜ生まれるのか分かっていないらしいが、黒い靄を纏い、凶暴で周囲の生き物を手あり次第に襲うらしい。
そして今回、一つ目で口が耳の辺りまで裂けた、十尺程もある猪の魔物に遭遇した。
テンマルさんより足が速く、障害物など物ともせずに突っ込んでくるから、たちまち追いつかれそうになったのを今でも鮮明に覚えている。
でもブンブクさんが赤黒い液体を投げ付けると、悲鳴を上げてどこかへ逃げた。
正直、あの時は生きた心地がしなかったなあ……。
思い出すと身震いしそうで、意識を都に向けた。
そこで、ブンブクさんの言葉に対し違和感を覚えた。
「ブンブクさん、まだ遠いけど青都って言う割に、色が緑じゃない?」
「青都の青は東を守護する四神、青龍に因んでおるのさ。そして象徴する色は青でなく、緑なんよ」
淀みないブンブクさんの説明に感心していると、やがてテンマルさんが足を緩め、青都の東門を潜った……。
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