第4話 旅の道連れ


「あっしは妖狸のブンブク。改めて、嬢ちゃんの名前と歳を教えてもらえんかね」


「……クシナ、今年で十二」

 

「随分痩せとるね。道中ちゃんと食わしてやるから、もちっと体に厚みをもたなあ。女子おなごはその方が、高く売れるでな」


 最後に意地の悪い一言を加えているけど、嘘が下手だなあ。


 白の忌子いみごに十分な飯を与えても、物好きでなければ安く買い叩かれるのがおちだろう。


 本来なら、ろくに食わせられなくても文句は言えない。


「変な商い屋だね、ブンブクさんって」


「なにおぅ、これでも都じゃ多少……気持ち、仄かに名が知られておる…………おったらいいなぁ」


 言いながら、顔が自信無さげに下を向く。


 その様子があまりに深刻そうで、場を明るくしようと戯けたのだと分かっていても、つい笑いが漏れた。


「おっ、やっと笑ったね。古くから、笑って損した者なしという言葉がある。嬢ちゃんは笑うと可愛から、尚更笑わんと勿体無い」


 可愛いはお世辞だろうけど、おかげで沈んだ気持ちが少しはましになった。


「ところで、そろそろ出発しないでいいの?」


 雪は直ぐ止むとしても、山に近いこの辺りの天気は変わり易い。


 雨となったら、ブンブクさんが言う体では体調を崩すかもしれない。

 

 もっとも、日々の仕事で培ったしぶとさが、簡単には寝込ましてくれないだろうけど。


「時は金なり。それじゃあ、荷車に乗っとくれ」


「うん」


 ブンブクさんと一緒に、荷車へ乗る。


 そこでふと、疑問が湧いた。


「この荷車、誰が引くの?」


 馬や牛が引いているのは、何度か見たことがある。


 けど、この荷車にはどちらの姿もない。


「おっ、嬢ちゃん火車かしゃは初めてかい?」


「火車?」


「火車っていうのは……見た方が早かろうね。おおい、起きとくれテンマルさん」


 ブンブクさんがそう言うと、突然大きな猫が荷車と一体となり現れた。


 呆然とする、あたし。


 テンマルさんと呼ばれた猫が、叫ぶ。


「話が長いぞこんにゃろー!」


 怒りを露わに牙を剥く姿は、ぱっと見恐ろしい。

 

 けど語尾と声音がどうしようもなく可愛いため、全く迫力がなかった。

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