第3話 2回目のデート
一月後、いきなり更紗ちゃんから連絡があった。
「どこか行きたいな。江田さん、いつなら都合がいい?」と、聞いてくる。
「この間、お金いっぱい使っちゃったから、洋服屋に行かないんだったらいいよ」と俺は答える。
俺たちはまた原宿で待ち合わせをした。
更紗ちゃんは、またショートパンツ姿にキャミソール姿と言う半裸のような格好で待っていた。お母さんも付いて来ていた。また何か買わされるんだと覚悟した。
「IKEAに行きたい」
更紗ちゃんが言った。IKEAだったら安いと思ったら、甘かった。家具を買わされた。女の子用の白いベッドだ。送り先は更紗ちゃんの家。俺はその場で暗記した。〇〇区〇〇1-2-8 〇〇〇〇302号室。今度、家に行ってみよう。
また、カラオケに行った。俺は今回は膝に乗せるオプションは買わなかった。
「じゃあ、隣に座る3000円はどうですか?それか、キスの12000円ていうのは?」
俺は両方断った。キスしたって更紗ちゃんが俺を好きになってくれるわけじゃない。更紗ちゃんはふてくされて、俺の向かいのソファーの上で胡坐をかいていた。際どい角度で、ショートパンツの裾から、中身が見えている。俺の目は釘付けだった。
え?
えぇ!!!
俺はびっくりした。裾から玉が見えていた。俺はその時、気が付いた。
その子が男だったってことを。俺は、騙されたんだ。
カラオケの時間がもったいなくて、テーブルに現金を置いて先に出てしまった。
「すいません。急用思い出しちゃって」
それっきり。もう、配信も見るもんかと思ったけど、あの子がこれからどうなるか気になった。後でお母さんに怒られていやしないだろうか。
だからやっぱり配信を見てしまった。
たまに、目を殴られたような痣がある時もあった。暴力を振るわれているのかもしれない。
配信はどんどん過激になっていた。Tシャツの下からブラジャーを取って、ノーブラになると「私胸ないから・・・恥ずかし~」なんて照れながら言っていた。
「みんなは胸のない女の子でも好きになれますか?」
「更紗ちゃんだったらOK」
「全然、かんけいない」
「問題ない」
アホどもがコメントを送る。
投げ銭が欲しくて手ブラをしてたこともあった。
でも、所詮は男だし、胸を出すのも恥ずかしくないだろう。更紗ちゃんを女の子だと思ってる、馬鹿な野郎どもがどんどん投げ銭する。お母さんは悪党だ。唯一の救いは更紗ちゃんはどこにも存在しない、架空の人物だってことくらい。
更紗ちゃんとの思い出も、彼が男の子だとわかった瞬間に価値を失ってしまった。そのまま騙されていたかった。俺が更紗ちゃんに使った35万円の一部でも彼に還元されただろうか。多分、されてないと思う。かわいそうだな。まるで、猿回しの猿。鵜飼の鵜のようだ。
更紗ちゃんはまだ配信をやってる。今更だけど、マスクをしてる。顔が変わって来てるんだろう。声は加工してるけど、不自然だ。
でも、騙されてる男たちが今日も彼に投げ銭をしてる。俺は彼から目が離せない。
✳︎✳︎✳︎✳︎
先日、警察が尋ねて来た。
「結構前ですけど、小学生の使用済み下着を買いましたよね?」と言われたから、俺は「そんなの買ってません」と否定した。家宅捜索されてしまい、お母さんが渡した、プチギフトが未開封で出て来た。
「もらったんですけど、そのままにしてました。私が買ったのは、カラオケで膝に座るオプションだけですよ。それをもらったのは結構前なんですけど、何かあったんですか?」
「あの子が母親を殺害しました」
「えっ!?」
「バットで殴り殺したんです。野球やってた子だったんで」
俺は原宿で会った時、更紗ちゃんが母親の言いなりだったことを思い出した。中年のおじさんの膝に座るなんて、屈辱だっただろう。おじさんと手をつなぎ、ハグ。ファンを連れまわして、高価な物を買わせて、しばらくすると、またおねだりのLineを送らせる。野球やってるのに長髪だった。
女装でのLive配信だって。友達にからかわれたりしたかもしれない。カラオケでおさわり、ホテルでの性的なサービス。母親を殺したくなるのも理解できた。
「かわいそうな子でした。だから・・・情状酌量の余地はあると思います」
「どうでしょうか。あの子は、母親を殺害する場面をLive配信してましたからね」
「え?そうなんですか?」
あ、なるほど。そういうオチか。Live配信の仇をLive配信で晴らしたんだ。
「今どきですね」
俺は残念ながら見てなかったけど、あの母親が泣いて土下座する場面をちょっと見てみたかったと思う。
「あの親なら当然ですよ」
俺はポロっとつぶやいた。
「え?」
「やっぱり、更紗ちゃんはかわいそうでしたよ」
ライブ配信 連喜 @toushikibu
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