天使の翼
天使の翼
道を歩いていると、空から天使が降ってきた。ドンという鈍い音を立て、その体は地面に叩きつけられる。しかし、怪我ひとつなかった。さすが天使は人間と違って頑丈に出来てるんだなと思い、僕は通り過ぎようとした。でも、もしかしたら「助けてくれたお礼に、あなたが死んだ時は天国に招待します」と言われるかもと思い、助けることにした。
「あのー、大丈夫ですか」
そう聞いてみたが、返事はない。だから、僕は天使を背負い、自分のアパートまで運んだ。その間、僕は多くの人とすれ違ったが、誰も僕のことを変な目で見る人はいなかった。きっと、この天使は僕にしか見えていないのだろう。
意識を失っている天使を僕は、ベッドに寝かせた。そして、その姿をじっと見つめた。しかし、1時間経っても起きる気配はない。どうしようかと思っていると、突然ぐぅーとお腹が鳴った。お腹空いたなぁ。でも、僕はバイトをクビになり、今は金さえなければ、食料さえろくにない。あるとすれば、醤油やみりんなどの調味料だけだ。すると、ふと天使の翼が目に入った。これはきっと手羽先だよな。煮物にしたら美味しそう。というわけで、天使の翼をもぎ取って食べることにした。まず、寝ている天使をうつ伏せにして、キッチンバサミで翼を切った。しかし、痛覚はないらしく、天使が起きることはなかった。それから、羽をむしり取り、手羽先を醤油とみりんで煮込んだ。そして、もうすぐ出来上がるといったところで天使が目を覚まし、ベッドから起き上がってきた。
「ここはどこ?」
目をこすながら、寝ぼけたように天使が僕に質問をする。
「あなたが急に空から降ってきたから、僕のアパートまで運んだんです」
「そう、ありがとう。ねぇいい匂い。今、何作ってるの?」
「手羽先の煮物です。天使さんも一緒に食べますか?」
「いいの?私も食べたいっ」
天使は寝ぼけているらしく、自分の翼がなくなったことには全く気づいていないようだった。
「ああ、美味しかった」
手羽先の煮物を食べ終わると、天使は椅子にもたれた。そして、素っ頓狂な声を上げた。
「私の翼がない!?ねぇ、君。私の翼知らない?」
「んー、知らないですね。僕があなたを介抱したときには、もうなかったですよ」
そう言って、僕はとぼけた。
「じゃあ、どうして私が天使だってわかったの?」
天使が責めるように僕に詰め寄る。しかし、僕は嘘をついた。
「だって、あなたの頭には黄色くて丸い輪っかがあるじゃないですか。それに、あなたが地面に倒れた時、あなたの周りには大量の羽が落ちていたので……」
「そっか。私、太陽に近づきすぎたせいで、翼がダメになっちゃったのか……」
よくわからないが、天使はひとりで納得したようだった。真実は知らない方が良いこともある。きっと、ここで僕が本当のことを打ち明けたら、天使が発狂すること間違いなしだ。
天使の翼 @hanashiro_himeka
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