第7話 居酒屋にいた、老人と女子大生

 給料日の、花金を迎える。


 オレたちは居酒屋で飲んでいた。


 食べ飲み放題四〇〇〇円という、そこそこなコスパの居酒屋だ。お互い、ほどほどに酔っている。


 メニューは限定されるが、シメのカレーに釣られた。カレーライスがシメで出てくるとは。


「ねえ、あの二人どう思う?」


 白瀬しらせが指を指したのは、大学生風の女性と、老人の男性だ。


 二人共にこにこ顔で、日本酒を酌み交わしている。つまみは、どて焼きのようだ。


「大学生と、教授だろ?」


 ここは、大学が近い。飲んでいるのも、学生ばかりだ。そのせいで、やたらと騒がしかった。


「教授と飲んでも、密会って線は薄いだろう」


 第一、デートなら赤いTシャツとジーパンなんてありえない。もっとおしゃれするはずだ。


 男性も、めかしこんでいるだろう。デートになんて誘わない。


「親子って線は? あるいは、おじいちゃんと孫みたいな」

「こんな騒がしい居酒屋でか?」


 うるさすぎて、親子でも利用しないだろう。


「たしかに、親子だったら家で飲むもんね」

「だからオレは、教授と女子大生がゼミの続きをしているって説を押す」

「でもさ、木を隠すなら森ってことわざもあるじゃん」

「あれが木だってのか?」


 ずいぶんと、堂々としすぎている気がするが。


「ゼミってフリをしてさ、プライベートな話をしてるんだよ。うるさいからさ、平然と下ネタ言い放題」

「根拠は?」

「二人きりだから。他のグループと結構離れてんじゃん」


 たしかに、あの女子大生カップルと大学生グループとの間には、社会人客が挟まっている。


「本当にゼミ生なら、もっと深刻な顔をしてるはず。それに、他の生徒が気づかないなんておかしいって」


 酒が回っているためか、えらく今日の白瀬は饒舌だ。酒のせいで、理論はめちゃくちゃだが。


「あと、メモしてない。雑談なんだよね」


 そっか。ゼミの続きだったら、メモるわな。いくら頭のいい大学だって言っても、メモしないで酒が入って頭にゼミの内容なんて入らない。


「だな。今回はお前の読みのほうが、当たってるかもな」

「今回はってなによ。今回も、だよ」

「はいはい」

「なんだよー」


 薄めのハイボールを開けて、白瀬はむくれた。


「まあまあ。シメのカレーで落ち着こうぜ」

「……だね」


 かなり酔っていたが、やはりオレは白瀬にはムラムラしない。


 おんぶして、慎重に送っていった。


「やっぱりカレーは美味かったなー」

「うん。うん。うふふ」


 白瀬はずっと、オレのネクタイを手綱のように握っている。


 今日の白瀬は、やけに絡んできたな。


「え、なに?」


 白瀬が、オレのネクタイを離さない。


「んだよ」


 あきらめて、オレがネクタイを外そうとしたときだ。


 ネクタイを、白瀬がグッと引っ張ってきた。


 白瀬の顔が近い。こっちをジーっと見ている。

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