第6話 オンラインゲーム世界の意味深カップル

 怠惰な一日は、朝からゲームに限る。といっても、デスマーチを終えて起きたのは昼前だが。


「この人、ネカマかな? 私を狙ってんのかな?」


 白瀬しらせが遊んでいるのは、オンラインゲームだ。

 主観視点でファンタジー世界を巡る話である。


 白瀬はもっさりした男キャラを使っていた。身バレ対策だそうで。思い入れを持ちたくないのと、言い寄ってこられないための防衛策で、かなりブサイクにキャラメイクしている。ジョブも不遇職だ。しかも鍛えていない。


 なのに、美少女魔法使いキャラに言い寄られていた。デブ体型から、盾役前衛職と思われたのだろう。


「もう、ついてこないでよ」

「なんでお前、ゲームまでうちに来るんだよ?」

「うちには、ゲーミングPCなんてないもん。あ、どっか行った」


 オレと話している間に、話しかけてくれたプレイヤーが去っていく。無視されたと思ったんだろう。白瀬はあいさつの仕方すらわからないだけなのだが。というか、オンラインゲームなのにパッドを使っている。会話用に、キーボードを触ろうともしていない。


「人と話す気がないなら、オフラインでやれよ。邪魔なんだよ」

「だって、それだと周りのカップルが見れないじゃん! 私はイチャイチャが見たいの!」


 世界平和より、他人のイチャラブ鑑賞を優先するとは。


 ホントコイツは、自分に言い寄ってくる相手には冷たい。「自分なんて愛される価値がない」という自己肯定感の低さが、白瀬から人を遠ざけていた。


 違うな。「愛し合っているカップルが見たい」という欲求が、やたら強いだけだな。


 以前どこかの配信者が「メンヘラって、セックスさせてくれる都合のいい女と思ってるでしょ? 違うよ。捨てられるのはキミたちの方だから」と言っていた。セックスはさせてくれるが、相手に興味はないので次々と男をとっかえひっかえするのだとか。今ならその気持がわかるなぁ。


「ねえ、小宮山こみやまくん、この二人どう思う?」


 白瀬が、ずっと付き添っている男女アバターを見つけた。


 あと、お気づきかと思うが、オレたちには恋愛感情はこれっぽっちもない。

「幼なじみなのに、お互い名字呼び」という段階で、察していただければ。


「配信者だろ?」

「でもさ、オンゲで結婚するって言うじゃん。同性同士とかがさ」


 どこまでガチなのかはわからないが。


「この二人は、どうなんだろうね」

「知るかよ。いいからお前もうオフラインでやれよ。ゲームでもコミュニケーション取れねえんだから」

「なに言ってんの? ゲームはコミュニケーションを取るためのツールじゃないでしょ!」

「オンライゲーム全否定!」


 こいつにとって、ゲームは一人でコツコツとやるものなのである。


 ゲームでさえ、友だちを作ろうと考えない。


 そこはオレと同じなのだ。


「いいじゃん。もういつもみたいに縦シューとかやろうぜ」


 そう。オレがゲーミングなんて買ったのは、オンゲをやるためじゃない。やたらハイスペックを要求される縦シューを遊ぶためだ。


「だねぇ」


 白瀬はあっさり、キャラを破棄した。

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