第4話 こじらせ女と、尾行

「……どこへ?」

「その、ホテル街」

「ば………バカバカバカ!」


 興奮した白瀬が、ウブな態度を見せる。


「私はあくまでも恋愛は眺めているほうがいいの! 自分でやるなんてまっぴら!」

「じゃなくて、後をつけたら? って聞いたんだよ!」


 サーッと、白瀬の顔から血の気が引いた。


「それもそうだね。バレないように尾行してみよう」


 ようやくオレの意図が読めたのか、白瀬が会計へ向かう。


 オレたちは、カップルをつけていった。


 ホテル街……なんて行かねえじゃねえか。


 唐揚げの屋台で買ったおみやげを渡して、女性だけタクシーで帰らせていた。その後、男性は電話をかける。相手は、家族だろう。


「なんだぁ」

「残念がるなよ。いいじゃねえか」

「もうちょっとめくるめく展開が会ってもよくない?」

「よくない」


 ホテルがズラと並ぶ街を、白瀬と歩く。


 なぜだろう。まったくコイツとこういうトコロへ入りたいって気分がしない。


 まあ、家がすぐ隣の部屋だからってのもあるだろう。といっても、「その気になればいつでも!」って気分もまた違う。


 性欲がわかないというのも、また違った。


「肉体関係になったら、絶対面倒くさいことになる」ってわかる女を、相手にしたくないのだ。


 白瀬もオレとホテルをチラチラ交互に見ているが、興味があるという感じではなかった。興味があっても、幻想でかまわないんだろう。「自分の妄想を壊されたくないから、リアルで見せるな」という圧を感じる。


 ためらいなく入っていくカップルを見ても、珍しく白瀬は妄想発言をしない。


「リアルを前にすると、お前でもダメなんだな?」

「なんか、直接的なものを見せられると、ムラムラが剥がされる気がして」

「入ったことあんのか?」

「ない」


 白瀬は、即答する。


「じゃあ、だいたい自分の部屋に連れ込んでって感じか?」

「もっとない」


 異性を交際した経験自体が、白瀬にはない。


「だろうな」


 経験豊富なら、妄想なんてしないよな。コミックや人からの体験談でしか、想像したくないのだろう。


 なんだかんだで、結局家まで帰ってきた。そこまで会話が盛り上がることもない。むしろ、終始無言なのがまた変な感覚だ。


 そんなに、リアルがイヤか。イヤなんだろうな。


「あのさ、小宮山くんは、女性と付き合ったことあるじゃん」

「一度だけな。大学のサークルで一ヶ月だけ」

「なんか雰囲気あった?」


 オレは、首を振る。


「ないよ。友だちの延長程度だった」

「ふうん」

「どうした?」

「なんでもないよ。また明日」

「おう」


 オレと同時に、白瀬はドアを締めた。

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