第3話 夜のファミレスに、着飾った男女

 定時で帰れたので、ファミレス行こうぜと白瀬しらせが誘ってきた。


 学生時代のように、エスカルゴ焼きを頼んだ。器に残ったオリーブオイルも、パンに浸して食べる。


 ドリンクバーの近くに、えらく着飾ったカップルが座った。男性はきっちりしたスーツ姿で、三〇代のタイトスカートの女性を連れている。チョリソーやチーズなどのつまみと一緒に、ボトルワインなんか頼んでいた。ぜいたくな食事だな。ファミレスなのに。


 女性は化粧がケバく、やっぱり水商売系かなと思う。三〇後半、いや四〇代かも。おそらく、白瀬より歳上だろう。恋愛経験値も高そうである。


「ねえ小宮山くん、あのカップルなんだろ?」


 二人分のジュースを持って、白瀬がカップルを眺めていた。


 また妄想モードか。朝も夜も変わらねえな。恋愛脳なんだから、自分で恋愛でもすればいいのに。


「あれかな。不倫だ」


 ライスを「おかず」に、白瀬はナポリタンをズズズッと豪快にすすった。


「なんで、そう言えるんだ?」


 ハンバーグセットを食いながら、一応オレも話に乗っかってやる。


「めっちゃ話し込んでるから」


 白瀬が言うには、夫婦だとあそこまで会話は弾まないそうだ。


「まあ言われてみれば」


 隣に座っている家族連れは、子供にかまけてお互い黙々と食べている。会話はない。


 一方、例の派手カップルは笑顔こそないものの、えらく話が弾んでいた。なんの話なのかは知らないが。


「ファミレスなのに、ワインなんて頼んでさ。きっとここは同伴用のお店なんだよ」

「そうかな? 同伴とかなら、もっとシャレた店に行かないか?」

「高級なお店に行かなくても、すでにお互いの勝手を知ってるんじゃないかな?」


 気を遣わなくてもいいレベルにまで到達した、ベテランの常連客だと。なるほどねぇ。


「多分さ、今から行くんだと思う」

「どこへ?」


 白瀬がキョロキョロと窓の外を眺めた。


「ここ、ちょっと行ったらホテル街じゃん」


 ファミレスの向こうには、駅がある。そこを少し歩けば、繁華街だ。さらに歩けば、お泊り可能な場所も。


「お前の頭は、アレのことしかないのか」

「だってさ、仕事終わりでお付き合いっていったら、そっちしかないじゃん。だからといって、精をつけてGOって感じでもなくて、そんなことしなくても楽しめるセックスをするんじゃないかな?」


 また白瀬は、ライスをおかずにしてナポリタンを貪った。


 中年カップルが帰っていく。窓から見ていたが、やはりお泊りのエリアへと消えていった。


「あのさ」


 食後のホットを飲み干し、オレは白瀬に尋ねる。


「オレらも行くか?」

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