第2話 定食屋の看板娘と、工事現場の若造

 いつもの定食屋で、俺は昼食を取る。ここは丼ものもうどんもうまいから、好きだ。


 俺の後ろにいる老夫婦は、昼間から瓶ビールを飲んでいる。こういうフリーダムさも最高だ。


「見てよ、小宮山こみやまくん。看板娘だよ!」


 白瀬しらせ 雪乃ゆきのはカツ丼をガッツガッツとかっ食らった。


 きつねうどんをすすりながら、オレは白瀬の様子を伺う。


 彼女の視線を追うと、看板娘が工事現場の作業着を着た若いあんちゃんと楽しげに語らっている。


「あれは、デキてるね! 幼なじみなんじゃないかな?」

「ないよ。両方とも敬語だぜ」


 オレは、きつねうどんを消費する作業へ戻った。おいなりさんもあったな。


「夢がない。小宮山くんさあ、マジで夢がないよ!」

「なくて悪かったな」


 お前の妄想が激しすぎるだけだと思うが?


 まあ、見立て通りあの二人はカップルで間違いないだろう。


「でもな。あの子、工場長とも仲が良すぎるんだよなー」


 納豆をかき混ぜながら、白瀬は若い衆の対面に座る男性に視線を向けた。


 若い衆を引き連れている工場長らしき人物も、たしかに看板娘と話し込んでいる。しかも、よりつっこんだ話題を振っていた。子供の頃の話などだ。


「親同士が仲いいとかじゃね?」


 見た限り、看板娘よりその父親である料理長と話し込んでいるではないか。


「つか、あの若い衆の父親って可能性も」

「ふむふむ。それもある」


 納豆をかき混ぜながら、白瀬はうーんとうなる。


「でも、もっとひねって考えてみない?」

「例えば?」

「仮にあの工場長が、若い衆と親子だったとしよう。でも、あの少女が幼なじみの父親とデキていたとしたらどうだろう!」


 なに、その安い成人コミックみたいなNTR展開?


「二人は恋人同士なんだけど、お互いをよく知らないからプラトニックを貫いているんだよ。で、カレシが何も知らないのをいいことに、少女は夜な夜な工場長に連れられて、人気のないホテル外に連れ込まれて組んず解れつなわけよ。まだ着られるでしょって、制服プレイとかさせられてさぁ」

「誰が好んで食うんだよ、そんな展開」

「私に決まってんでしょ? それくらいやんないと、面白くないって」


 コイツはどうして、「中年男性イコール少女を食い物にする」としか考えないんだろう。


 後ろにいる老夫婦が、白瀬に哀れみの視線を送っていた。


「恋愛は見世物じゃねえんだよ。妄想はよそでやれ」

「だって、実際の恋愛の仕方なんてわかんないよ。友だちの話聞いてもグチばっかでさあ。私だって環境が整ったら恋愛の一つぐらいできたのにー」


 大声で、白瀬はむくれだした。 


 出禁にされろ、お前。

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