白瀬 雪乃は、こじらせすぎ! ~恋は妄想だけで十分だから!

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第1話 雨の日に送り迎えするおっさんと、笑顔で手を振るJK

「見てみて、小宮山こみやまくん! あのJK! 運転手のおっさんに手を振ってた!」


 また、白瀬しらせ 雪乃ゆきのの病気が始まった。


「だから、どうしたんだよ?」


 ハンバーガーの包みをクシャクシャにして、オレは適当にあしらう。いつものことだ。


「あれは絶対に、『パパ活』だよ!」


 白瀬はアイスコーヒーをストローで勢いよく吸う。


「はあ……」


 オレと幼なじみの白瀬は、学校どころか職場も同じ。引越し先のアパートも。


 もっといい学校や会社へ入れるにも関わらず、なぜか彼女はオレについて来たがるのだ。


 しかし、交際はしていない。オレも、白瀬は勘弁してほしかった。


 仕事はバリバリこなすし、お相手の一人や二人はすぐにできそうな気もする。しかし、デキすぎる女だから物怖じしてしまうのか、未だに殿方からのお誘いはないらしい。


 お互い満員電車大嫌い勢なので、今日も早めの電車に乗る。駅前のバーガーショップで、一緒に朝飯にしていた。意識高い系の集まる外資系コーヒー店へ行かないところが、庶民派の白瀬らしい。


 その窓から、JKが運転手の中年男性に笑顔で手を降っている姿を、白瀬は目撃したのだ。


 彼女の趣味は、妄想である。なにか男女のやりとりを見ては、白瀬はあらぬ妄想を膨らます。


「パパ活っていう証拠は?」


 一応、話に乗ってやる。


「なんでよ。見たらわかるじゃん。親子だったら、あんなに仲良くしないって!」

「お前の家族と一緒にすんな」


 こいつは家庭環境が複雑すぎて、恋愛感情はどこか世界の片隅においてきてしまった。「恋愛は、フィクションで味わうのがちょうどいい」というのが、白瀬の信条である。


 オレも青春時代を二次元に捧げた影響で、実物の女とのコミュニケーションは苦手だ。交際経験は多少あるが、正直生身はめんどくさい。おかげで彼女いない歴イコール年齢ではないものん、キス以上さえ経験のないアラフォー童貞である。


 それは、白瀬も同じだ。


「あれはきっと、ホテルからの帰りだよ。彼女はパパと逢瀬を重ねたままの制服で、登校しているんだ」

「だったら、傘持ってるのおかしくね?」


 さっきのJKは、カラフルな傘を持っていた。おそらく私物だ。


 昨日は晴れていたのに、強化差を持っているのはおかしいだろう。


 あんなプリントがされた傘など、コンビニで売っていない。


「よく見てるねぇ。でも折りたたみだったじゃん。今は出しているけど、カバンに常備している可能性もあるよ」

「つっても、親だろ普通は」

「じゃあ、あれが親だって根拠はある?」

「普通、JKが朝帰りなんてするか?」


 学校のある前日に男と朝帰りなんて、親が黙ってないだろ。


「両親なんて、娘のことにいちいち口出さないって。姉貴のときだってそうだったもん」 

「だから、お前の家族基準で考えるなっての」


 コイツが恋愛苦手勢になったのは、姉の影響だ。


「私はパパ活だと思うなぁ。親相手に、あんな満面の笑みなんて浮かべないって」

「……ホント、擦り切れた青春を送っていたんだな」


 窓を眺めながら、白瀬は残ったテリヤキバーガーを口へ放り込む。


「前日はお楽しみだったはずだよ。で、快楽に逆らえずに今夜も……」


 哀愁を漂わせていると思ったら、考えている妄想は最低だった。


 仕事行こ。

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