第4話 佐和山城下の戦闘 その2

 戦国時代に転生して鶴松となって活躍したおれは、鉄砲鍛冶の仁吉に機関銃のアイディアを伝えている。その結果が火縄機関銃にまで進化を遂げているのだ。


 標準的な火縄銃は銃身が130センチほどの長さであるが、有効射程距離は100メートルくらい。一方この火縄機関銃は銃身が200センチを超え、さらに従来の火縄銃と違いライフリングが施されている為、弾丸は真っ直ぐ飛ぶ。有効射程距離は250から300メートルもあった。

 円錐形の弾丸は紙製の薬莢と一体になっていて、薄い板状で連なる木製のカートリッジとなっている。それを一人が上から押し込んでいく。もう1人の射手は一発ずつ引き金を引くと、一分間に80発位撃てる。点火方式は火縄銃と似たようなものだ。重い銃身は台座に設置されており、撃ちながら上下左右に狙いを移動出来る仕組みとなっている。

 海賊対策用の商船には船首と船尾にに2基づつ設置してあったから、3隻で計12基の火縄機関銃が持ち込まれた事なる。それを外して陸を移動出来るように台車に備え付けたのである。


 東軍は左右に長く布陣している。その左翼を火縄機関銃の銃弾に見舞われたのだ。もちろん思ってもいない攻撃である。無防備の兵がバタバタと倒れていく。


「前進しろ!」


 ハックは100メートルほど全員を前に進めさせると、


「撃て!」


 再び銃撃を開始させた。今度は家康の本陣までも弾が届くではないか。

 これで東軍は一気に動揺した。横長だった陣形が縦長に変わってしまったのだ。


 おれは騎馬軍団に縦長となっている東軍の横腹に攻撃を加えて、前後に分断してほしいと頼んだ。


「幸村、勝家、前面の敵が孤立したら左右から包み攻撃せよ。朝成殿は正面から突撃して頂きたい」

「分かりました!」


 朝成はそう返事をすると、飛ぶように走って行った。


「佐助、狼煙を上げよ」

「はい」



「お頭、また狼煙です」

「よし、城の正門前まで移動するぞ」


 ハックの仲間達は火縄機関銃を台車から外して別々に運ぶ。熱くなっている銃身は専用の厚い皮で包み、二人掛かりで脇に抱えたり、肩に担いだりして走り出した。台車も四人掛かりで担ぎ走る。この方が早い。


 この時、家康は致命的なミスを犯していた。鶴翼の布陣が思わぬ展開からあり得ない陣形になってしまっている。更に先鋒は全滅して、いま東軍は統制の取れない状況に陥っているのだ。やはりここは一旦引いて体制を立て直すべきである。だが、佐和山の城兵は2800というではないか。そのような寡兵を前にたとえ先鋒が敗れたといっても、まだ70000近くいる東軍が後退するなど有り得ない話しだ。

 しかし現実は訳の分からない状況になっている。これは一体なんなんだ。

 家康は明らかに混乱して判断が遅れていた。


「殿、西軍の伏兵です。ここは一旦引いて体制を立て直しては如何でしょうか」

「……敵はたった2800の寡兵なのだぞ!」

「しかし伏兵が……」




 この時、騎馬軍団は自らの役割を見事に果たしつつある。

 東軍の脇腹を突き抜け分断させてしまった。正に家康の目の前を異様な騎馬軍団が駆け抜けていったのだ。


「殺せ、殺せ、殺せ!」


 その後は分断させてしまった後方の東軍を騎馬軍団が牽制して、前方で孤立している東軍の左から幸村、右から勝家の部隊が、正面からは佐和山城兵が突撃を開始、大打撃を与える。包囲された部隊の中央にいる兵士は、味方が邪魔で手が出せず無力化する。周囲を囲まれた部隊は兵力が半減するのである。


「半蔵、佐助、予定通り全軍撤退を伝えろ」

「はっ!」


 東軍の前面部隊をほぼ半減させた西軍は騎馬兵を含め、城の正門前まで後退を始める。




 これを見ていた家康、


「見ろ、西軍が引いているではないか。直ちに攻撃だ、全軍で追撃しろ!」




「急げ、正門までさがるんだ」


 朝成、幸村、勝家の部隊がさがりきると、そこに再び姿を見せたのはキャプテン・ハックの率いる火縄機関銃部隊であった。


「撃て!」


 追撃して来た40000あまりの東軍に向かって、12基の機関銃が火を吹く。一分間に80発、12基で960発である。東軍の将兵たちは西軍の見守る前でバタバタと倒れた。機関銃の弾幕をくぐり抜けて来た者は、火縄銃が狙い撃ちをする。

 それが10分余りも続くと、東軍の勢いは完全に止まった。


「突撃せよ!」


 おれは再び全軍に攻撃命令を出した。

 戦さでは勢いというものが大勢を左右する、兵力の差ではない。天下の形勢は、ほんの僅か流れが変わっただけで決まってしまうものなのだ。勢いを失った東軍は既に敗残兵であった。劣勢を悟り逃げる者が次々と騎馬兵に狩られいく。

 既に家康殿の消息が分からなくなる。

 ただ良い事ばかりではなく、その後三成殿が東軍に捕らえられ、殺害されたと報告が入る。


 天下分け目の関ヶ原はこうして混沌とした終わり方を迎え、ここに新たな戦国時代が始まろうとしていた。


「秀……秀頼様」

「ん?」


 常におれの側に護衛として控えている安兵衛が聞いてきた。


「この後はどうなさるおつもりなのでしょうか。それともまた天界に帰られてしまうのですか?」

「天界だと?」

「はい」

「そうか、安兵衛の時代の者からしたら、時空移転は天界との行き来のように思えるのかもな」

「…………」


 さて、どうするか。夢中で関ヶ原の戦いに介入してしまったが、この始末をどうするのだ。おれはたった今終わったばかりの戦場を見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

時空破壊の関ヶ原 @erawan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る