第3話 佐和山城下の戦闘 その1
ここは佐和山城内である。圧倒的多数の東軍に包囲され、留守居兵の誰もが死を覚悟しているだろう。それでも突然現れた秀頼と5500もの兵に困惑を隠しきれないのか、そこかしこで何事か囁き合っている。
「正継殿」
「あ、はっ」
佐和山の城を息子の三成から預かっている石田正継も、未だ困惑した顔で、なんとか返事をした。
「私の連れて来た軍は歩兵が5500、騎馬兵も城の外に5400ですから、我が方は城兵の2800と合わせると13700となります」
「……城の外にで御座いますか?」
この時点ではまだカヤンの領主ダニエル・ヤングの軍団である重装騎馬兵5000と、タタールの傭兵騎馬軍団400騎を率いる隊長バルクは来ていない。さらに言えばイングランドの海賊ウィリアム・ハックと300人の仲間達もまだである。
そして兵士の数だが、ちなみにローマ軍団では1個の軍団の定員は5000人だったようだ。
「どうであった」
「はっ」
おれの前に偵察を終えて戻って来た服部半蔵、くノ一の猿飛佐助が控えている。
「石田三成殿を始め、安国寺恵瓊、長宗我部盛親、長束正家殿などの逃げておられる西軍の将兵を追って20000余りが東軍本体から離れました。したがいまして先鋒の15000と、さらに家康と共に控えている背後の東軍は60000か70000程で御座います」
「そうか」
「あの……」
半蔵の報告を聞いていたおれの背後から、声を掛けて来た者が居る。
「秀頼様」
「ん、その方は」
「申し遅れました。私は石田朝成と申します」
石田朝成、通称は右近。父は石田正澄。石田三成の甥であった。
「ご命令下されば今直ぐにでも、我ら城兵は一丸となって東軍に斬り込む所存で御座います」
多分この者は既に玉砕の覚悟を固めているのではないか。それは無理もない。当初は2800の城兵に対して、その数十倍の東軍に囲まれたのだ。しかも既に西軍は関ヶ原で負けたと報告が来ている。佐和山城主の石田三成殿も逃げているという事だが、逃げ切れるものではないだろう。
こうなったら石田の一族は皆殺しとなる。もはや迷う事はない。どのように死ぬか、それだけを考えれば良いと。
「自決などは誰も考えておりません。あくまで敵に一矢を報いる所存で御座います」
「まあ、そう焦るな」
おれは城兵全員に表門の前に出て待つように言った。幸村や勝家の兵らも全員である。
さらに全ての鉄砲を前に出して並べさせると、おれはトキに頼んで、カヤンの領主ダニエル・ヤングとタタールの隊長バルクに、東軍の先鋒15000を背後から攻撃してくれるように連絡してもらった。
やがて戦場の広大な空間が歪み、カヤンの重装騎兵5000とタタールの傭兵騎馬軍団400騎が時空移転をすると、東軍の先鋒に襲い掛かった。
「野郎ども、殺せ、殺せ、殺せ!」
バルク隊長の檄が飛んでいる。
当然のように東軍先鋒の動揺は隠しきれない。背後から得体の知れない騎馬軍団にいきなり攻撃されたのだ。
だが時空移転などという想像を絶する状況はもちろん理解出来ていない。まるで後ろの東軍が裏切り、襲って来たような感覚にとらわれた先鋒の兵達は反撃も敵わずに逃げ出した。
最後尾の者はほぼ無抵抗のまま切り殺され、その次の者共は次々と友軍を押し倒して逃げ出した。
しかし、逃げた先には佐和山城兵、幸村、勝家らの鉄砲隊が待ち構えていたのだ。
「撃て!」
一斉射撃の後は鉄砲をその場に捨てさせ、全軍に突撃を命じる。東軍先鋒は背後から5400の騎馬兵、前からは復讐心に燃えた佐和山の者達が突撃を開始する。この東軍先鋒は小早川を始め西軍を裏切った者達だと、皆が認識していたのだった。
だが関ヶ原では小早川が裏切ろうとした時、それに反発して戦線を離脱した家臣松野重元というような者も居る。彼はその後豊臣家を裏切らなかった忠義者として評価を受けている。
しかし西軍13700に囲まれた小早川達は、関ヶ原での大谷吉継隊と正に同じ運命を迎え、混乱して統率を失った末全滅した。
背後に控えている東軍の面々は何が起こっているのか分からないまま、呆然と立ち尽くしているだけであった。
「秀頼様」
石田朝成が声を掛けてくる。先鋒は撃ち砕いたが、まだまだ圧倒的な勢力差である。前方には東軍がびっしりと並んでいる。
「いよいよ決戦で御座いますな。先鋒は是非某に。我等の死に様を敵に見せてくれます!」
「ハッハッハッ、未だそんな事を言っているのか。まあ、もう少し様子を見ておれ」
おれは振り返ると、
「佐助はおるか」
「これに」
「狼煙を上げよ」
「はい」
猿飛佐助は遠州平野での豊臣軍と徳川軍との決戦でおれが転生した秀矩と共に活躍した。
「お頭、城から狼煙ですぜ」
佐和山城から程近い琵琶湖畔に上陸した異様な者共がいる。
ユキの商船3隻に分乗してやって来たイングランドの海賊キャプテン・ウィリアム・ハックと300人の仲間達だ。
ハックは大西洋を荒らし回っていたのだが、安兵衛の娘ユキにオランダで絞首刑寸前のところを助けられて、その後は配下となっている。
「いつでも銃撃出来ます」
「よし、撃て!」
横に広がっている東軍の左翼側から、12基の火縄機関銃が一斉に火を吹いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます