第2話 関ヶ原
関ケ原で戦われた日本を二分した東西両陣営の布陣は、誰が見ても西軍が圧倒的に有利だっただろう。事実、小早川秀秋が裏切る前の午前の戦況などは、西軍が優勢だったとも記録されている。
しかし大谷吉継が、秀秋の裏切りに備えて配置していた脇坂・朽木・小川・赤座の4隊があろう事か東軍に寝返り、大谷隊に突如打ち掛かって来た。これにより大谷隊は前方の東軍、脇から脇坂らの内応諸隊、さらに背後から小早川隊の猛攻を受けて壊滅、吉継は自害した。
西軍の右翼がいきなり瓦解してしまったのだ。
東西陣営間はほとんど数百メートルの距離だから、大群勢の上げる歓声は嫌でも聞こえる。しかもその声が味方の陣営内からでは些か穏やかではいられない。味方の裏切りがハッキリしたからである。
疑心暗鬼だった戦場の趨勢は一変し、西軍の諸隊は動揺して潰走の端緒となった。
毛利の大軍は始めから西軍の勝利を危ぶみ、東軍と密かに内通して、表向きは西軍であるが、戦場では戦わず。
結果、安国寺恵瓊、長宗我部盛親、長束正家らも傍観せざるを得なくなり、西軍の敗色濃厚となると戦わずに戦場を離脱した。
結果、石田三成は伊吹山へ敗走し、逃げる西軍の戦死者は約30,000を超えた。東軍はその三分の一位だったという。
だが小早川秀秋は関ヶ原の戦いからわずか2年後、上方から帰国の途上で行った鷹狩の最中に体調を崩し、その3日後に死去したと記されている。この早世に関しては、秀秋の裏切りによって討ち死した大谷吉継の祟りによるものとする逸話も残されているが、当時から裏切りは非難されていたのだ。
脇坂安治をはじめとして、朽木元綱、小川祐忠、赤座直保といずれも関ケ原の戦後処理では減封、改易の処分を受けた。約束されていた筈の戦後恩賞を与えられず、所領を没収された者もいる。
西軍を裏切って東軍についたのに家康から嫌われ冷遇されたのだ。
ただこのうち脇坂安治だけは徳川家康に事前に内通の意思を示していた。もともと安治の息子、安元は東軍として戦うつもりでいたのだが、西軍での出陣を強要された。安元はこの事情を家康の家臣に伝えている。結果関ヶ原の戦い後は加増されないものの、本領を安堵された。
たしかに下剋上の戦国時代で生き残りを掛けて裏切る事など日常茶飯事ではあった。それでも島津家などは最後まで勇敢に闘い抜き、家康の配下に打撃を与えたにも関わらず特別な扱いをされている。やはり裏切りは最悪の手段ではないのか。
この日戦闘が終わると家康は首実検を行い、翌日に掛けて関ヶ原から目と鼻の先、佐和山城を包囲した。
家康は小早川秀秋軍を先鋒として、石田三成の居城を攻撃させたのだ。佐和山城の兵力の大半は関ヶ原の戦いに出陣しており、守備兵は2800とされている。
そして史実では城主不在にもかかわらず城兵は健闘したが、やがて城内で一部の兵が裏切り、敵を手引きしたため落城し、三成の一族は皆戦死あるいは自害して果てた。
佐和山城での戦闘は寡兵な守備兵に対して、東軍の先鋒は小早川秀秋軍、脇坂安治、朽木元綱、小川祐忠、赤座直保らの寝返り組に加えて井伊直政、田中吉政という顔触れで約15000であった。
勿論その背後には東軍の90000程が控えているはず。
佐和山城は周囲を平野に囲まれて琵琶湖の脇に建つ小高い山城である。山上に本丸を中心として西ノ丸・二ノ丸・三ノ丸を備えた堅固な城で標高は200メートル強だ。
しかしその日の夕刻、佐和山城に西軍敗北との一報が届く。これは直ぐにでも東軍が攻めて来るだろうと混乱の極みに達した城内だが、そこに何の前触れもなく現れたのは結翔が転生した秀頼である。従える側近は五島安兵衛、霧隠才蔵、くノ一の猿飛佐助。さらに幸村とその配下の兵2500、毛利勝永の兵3000の総勢5500であった。
「この佐和山城内に裏切り者が居る」
驚愕、戸惑い、訳がわからず呆然とする佐和山城の武将達を前に、時空を超えて現れた秀頼の第一声である。
生き馬の目を抜く戦国時代で、裏切りが事前に発覚した武将には悲惨な運命が待ち構えている。
斬首などは良い方で、磔はもちろん、串刺しから逆さ磔、焼き殺したりして残虐を極めた。全ては見せしめの為だ。もちろん当人だけでなく一族郎党、女も子供も容赦はなかった。
「長谷川守知殿はおられるかな?」
長谷川守知は西軍に属し、京極高次の要請を受けて大坂より増援として石田三成の居城である佐和山城に籠もったが、後に東軍へと転じた高次と同様に守知も間者であったという。小早川秀秋ら東軍に寝返った部隊が攻め寄せてくると、守知は秀秋と内通して裏切り、秀秋の軍勢を三の丸に引き入れて佐和山城を早期に陥落させた張本人である。
秀頼の発言に、その場に居合わせた佐和山の者達の視線が一人の武将に集まった。
目の前までゆっくり歩いて行くと、その者は動揺しているのか、視線が定まっていない。
おれは最後通告をした。
「今すぐこの城を出て行くか、自害するか、好きな方を選ばせてやろう」
「…………」
「どっちにするのだ!」
男はおれの一喝にビクッとし、ぎこちない素振りを晒し逃げ出して行った。
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