#38 本当のこと

「そんな昔からなんだ」

 

「うん、記憶の始まりからミリはずっと一緒。俺と同い年の設定でずっと一緒に育ってきた。って言ってもミリの場合は外見だけだけど」



 ユウキに促されて、ミリのこと・・を教えることになった。

 ユウキと俺みたいに少し話しただけでも、俺のNAITEAナイティーシステムへの依存度は相当と感じられるらしい。

 言われてみれば、俺の日常のほとんどはNAITEAナイティーシステムに支配されていた。

 それは便利だからだし、指摘されたところで少しも違和感はないけど。


 

「イメージわかないなー。俺は物心ついてからの半年くらいしか3Dアシスタント使ってないし」


姉弟きょうだいみたいに思った記憶はあるよ。家族とか。でも、母さんから違うって言われたのも覚えてる。AIとかシステムとか説明しづからったんだと思う。ミリは俺にいろんなことを教えてくれて、俺を守ってくれる味方だって言われて、ずっとそう思ってた。家族以外で、一番近くにいつも居たし、特別だった」


「AIだって分かったのは?」


「小学校の時。スポーツの授業の休憩時間に、他の生徒がミリに酷い扱いをしたんだ。そいつはNAITEAナイティーアシスタントを召使いみたいに使ってた子で、ミリにもその延長で接しただけだった。俺は何にも知らなかったし、ミリは大事で守らなきゃいけないと思ってたから、あー」



 話す途中で少し気まずくなった。

 野蛮な過去だ。

 ユウキに引かれはしないか。



「やっちゃったわけか?! 言葉で? 暴力で?」



 引くどころか食いついたっ。

 心なしか瞳が輝くユウキに俺は胸を撫で下ろす。



「小学生だからな、暴力っていえたもんじゃないけど、まぁ、手が出ました」


「まぢか」


「ちょっとした問題にはなって、両親も学校に呼ばれたり相手一家に謝ったりして。で、説明された。ミリはそういう・・・・扱われ方をしても問題ない、システムの一部データに過ぎないって。その後、俺も謝らされたし」


「それって、タドコロの気持ちはどうだったの?」


「あんまり覚えてない。世界が変わったってくらいの衝撃ははっきり自覚があるけど。それから、ミリは学校に行く時だけ使うようになって、家族の会話にもほとんど出なくなった。学校絡みで話す必要がある時も、3DアシスタントとかNAITEAナイティーシステムとか、父さんも母さんもミリを名前で呼ばないように避けてたと思う。だから、俺も自然と受け入れてたと思う」

 

「そっかー……」


「ずっと平気だったんだ。ちゃんと、わかってた。……なのに、最近おかしくて、俺。なんか、なんか、ミリに変な期待をしてるっっ」



 腕で頭を抱えて、俺はそのままテーブルに伏した。

 俺の話したかったことはこれ・・だったんだ。

 するっと口からこぼれ出た言葉に、今更のように気づかされる。



「……言っちゃえよ、笑わねぇーから。変だなんて引かねぇーから」



 ユウキの言葉は暖かい。

 俺の胸の中の縮こまった何かが柔らかく溶けていく。

 俺はミリに期待している・・・・・・・・・・・



「……ミリの俺を見る目がミリの意思なら良いって思う」



 一度ひとたび言葉にすると、思いはとめどなく外へ溢れ出ようとする。

 


「ミリの口から、ミリ自身の言葉を聞きたい。プログラム演算の結果じゃない、俺の言葉を聞いて・・・理解して・・・・感じた・・・ミリの言葉を」



 堰を切ったように、すべてを吐き出すまで止まらない。



「音声認識でも言語解析でもなくて、ミリので受け入れて欲しいっ、そんなもの在るわけないのにっ。分かってるよ、分かってるはずなのに……ミリといると、ミリを目の前にすると、ミリならって、思っちゃうんだ……。これってあれ・・なのかな?」


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