#34 丸形小型爆弾《グレネード》

 俺とユウキの間には袋詰めされた丸形小型爆弾グレネードが一袋。



「ヤバい」


「うん、ヤバいな」



 頬の緩んだユウキが頷く。俺も頷く。

 頬は同じくユルユルだ。

 ユウキは丸形小型爆弾グレネードを一つずつ手で取り出しては、リズミカルに口に放り込んでいく。

 口の中で噛み砕かれ、パキッ、ガリッと軽快な音が響く。

 絵的にはシュールだ(笑)。

 きっとユウキからも俺はそう見えてるだろう。



「見た目グレネードで固いくせに、中身ふんわり激甘ハニトーとか。このギャップ癖になる~、止まらね~」

 

「俺はハマった。お土産に買って帰るよ」


「お土産って誰に?」


「家族。というか俺」


「あぁ、自分にか。ビックリした」


「?」


「タドコロのNAITEAナイティーは食事するのかと思った」


「……ミリって、言うんだ」


「聞くよ。話あるんだろ」



 穏やかに微笑むユウキは、ジャスミンティーのサーバーからカップにお茶を注いだ。

 ほわっと香りが漂ってくる。

 俺も自分のカップの中を見た。


 ユウキと交わす他愛のないチャットの中で、俺は送っていた。

 話したい、というか、聞いて欲しいことがある、って。

 消えてなくなればいいのに消えない、

 俺の胸の奥に残るよどみ。

 一人で抱え耐えるのは辛かった。


 カップの底のわずかな残りを飲み干して、ユウキの後にサーバーからお茶を注ぐ。

 温かい。

 胸元の青い生地、金色の刺繍が目に入った。

 とても精巧で美しい。

 大きなメダルもだ、わずかだが重みも感じる。

 


「……AIは偽物なのかな……」



 **



「珍しいな、トオルが外食なんて」



 タドコロ家のリビングでは夕食が始まろうとしていた。

 トオルの父親が、買ってきた食べ物を袋から取り出して、テーブルに並べている。

 息子がいないなら出来合いの食品ものでもいいわよね、と妻から頼まれていた。

 


「連絡が来た時は私もビックリしたわ。しかも、一緒にいる友達っていうのがサクマユウキって」



 寝間着兼部屋着に着替えて、トオルの母親はリビングに戻ってきた。



「わっ、美味しそう! ちょっと豪勢じゃない?」


「せっかくだから飲まない? と思ってさ」


「お酒も買ってきたのー? いいわね、飲みましょ」



 二人はテーブルの席につき、軽く乾杯をして、食事を始めた。

 


「トオルがサクマグループの人間ひととねぇ~」


「同じ学校に通ってたんですって。合同授業で一緒になってたみたい」


「へぇ~前から遊んだりしてたのか?」


「ううん、今日が初めてだって。思いの外楽しかったみたいで、ご飯も一緒に食べてから帰りたいけどいいかって。サクマユウキからプロフィール付きでチャットが来たから安心できたけど、突然すぎて不安になったわよ」


「事件に巻き込まれたんじゃないか、て心配性のミチコでなくても心配にはなるよな」


「えー?」


「ははっ。あいつ、友達なんて作ってたんだな。ミリにベッタリだから、他人になんて興味ないのかと思ってた。まぁ、それでも何の問題もないけど」


「興味が強すぎる方が心配だしね……。病んで脱落する・・・・・・・人間ひとに割合が多いって」


「ただのデータだろ?」


「統計から得られた確かな情報よ」


「まぁそうだけど……、所詮集団の傾向でトオル個人にあてはまるとは限らないよ」


「……」



 無言で皿の上のサラダを見つめるミチコ。

 その様子に夫のススムは「もう慣れました」という笑みをこぼす。

 


「こないだのミリからの報告レポート、気にしてるのか」


「……人間にじゃないから、ミリは人間じゃないから、強い興味や依存も問題ないのかしら」



 

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