#30 変化の一歩

 それからまた、変わらない日常へと復帰した。

 俺はミリと学校へ行き、

 ミリと俺と教師で行う個人授業を受け、

 ミリと時に寄り道しながら家へ帰る。

 両親と食卓を囲み、最近のことや今後のことを話して、

 自室で勉強や自分一人の時間を楽しむ。

 毎日は、そんな繰り返しで消化されていく。

 以前と変わったことといえば、サクマユウキとチャットするようになったことだ。


 

「ねぇ、トオル。今日はこれからどうする?」



 その日も授業後の教室で、ミリがいつものように笑顔で確認してきた。



「今日はユウキと遊ぼうって約束してるんだ。カフェテリアで待ち合わせてる」


「ユウキって、サクマユウキ? いつの間にそんな約束してたの? チャットで?」



 ミリが小首をかしげて、髪がサラサラと揺れる。

 チャット機能は家族としか使っていなかったから、NAITEAナイティーシステムと連携をかけていない。

 そこで交わされた会話の内容を、ミリは知らない。



「うん。だから、後は一人で大丈夫。また明日な、ミリ」



 俺はタブレットを操作して、NAITEAナイティーシステムを終了させオフにする。

 こんなこと、多分初めてする。

 操作を終え、タブレットを鞄にしまうと、隣の席の机の上のプロジェクターへ手を伸ばす。


『トオルのことなら、トオル自身より良く知ってるよ』


 そうかもな。

 でも、以前と変わったことがもう一つあるんだ。

 ミリはどこまで知ってるんだろう。

 

 俺には、ミリには知られたくないことが出来た。



 ***



「タドコロ!!」


 

 カフェテリアへ入るなり、聞き覚えのある声が俺を呼んだ。

 テーブル席からサクマユウキが手を大きく振っている。

 俺が向かうより早く、ユウキが席を立ってこちらへやってきた。

 

 

「久し振り! っていっても、結構チャットしてたけどな」

 

「うん。ユウキは元気? だったよね。けど、会えて嬉しいよ」

 

「サラッと言うねぇ~」

 

「え? だめなやつ?」

 

「ダメではない! じゃ、行こうぜ。時間もったいねー」



 カフェテリアを出て、がんがん進むユウキを慌てて追いかける。

 相変わらず行くとなったら早い奴。

 でも、今回は気持ちがわかる。

 俺もワクワクと気持ちが逸って、走り出したいくらいだった。

 走ったらユウキを追い抜いちゃって、行き先がわからない上に、引かれるからしないけど。

 聞いて驚け!!

 これから俺らは、先週オープンしたばかりのヴァーチャルオープンワールド、PrimordiaプリモルディアTatooineタトゥインに行くんだ!

  

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