#29 答え

「俺は、ミリに会いたかった。ずっと……。変かもしれないけど。学校とか、一人とか、それは関係ない」



 バクバクと身体中から鼓動が響いている。

 ミリは、真顔で、黙って俺を見ていた。

 ほら、大丈夫。

 ミリは、ちゃんと聞いてくれる。



「が、画面の中じゃ、違うんだ。……ミリだって、分かる、よな? ミリをぎゅっとしたのも、イライラしたのも、全部、全部、ミリに会いたかっただけなんだ」



 ――だから、もう知らぬ顔で払い除けないで。


 バクバクした音は速度を速めて、俺のいる世界全てで鳴り響くようだった。

 ミリは俺の手首を掴んだまま、至極自然に数歩下がって俺から距離をとった。

 それからいつもの微笑みを俺に向ける。



「そっか。学校とはいえ一人は不安だったよね。でも安心して、トオルはちゃんと上手く出来てたから。今日知り合った中から友達も出来るかもしれないね! 一番話しやすかったのはサクマユウキさんかな?」



 何かが一瞬で凍った。

 そして砕けた。

 目を逸らそうと、夢を見ようと、何をしようと。

 ミリはNAITEAナイティーシステムのプログラムだ。



「…………そーだね」


「他の人で、話しやすかった人、もう少し話してみたいなって人はいる? NAITEAナイティーシステムで連絡手段を探すことも出来るよ」



 俺だって忘れてなんかない。知ってる。

 俺の教育だけが目的の、無形の電子機能だ。

 さっき抱き締めたのも、確かに腕の中に感じたものも、ただの電気信号まぼろし

 ミリ・・は正しくて、おかしいのは・・・・・・だ。



「特にいないよ……」


「そう、いないのね。ねぇ、トオル。今日学校であったこと、私に教えてくれないかな? 今日はうちでお留守番だったから、トオルの話が聞きたいなぁ」



 遠慮がちな、すこしもじもじした仕草をしてみせる。

 お願いモードのミリだ。可愛いと思う。

 いつもなら、お願いモードにこんなあざとさってどーなのよっ(笑)てツッコミながら、しょーがねぇなぁって聞いてやってる。

 それが、こんなてついた悲しい気持ちになるなんて。



「全部知ってるだろ、ミリは。もういいよ、前と同じに起動設定して」


「りょーかい、トオル。プロジェクターの起動設定を変更します。NAITEAナイティーシステムアシスタントナビゲーターの起動設定と連動。『自宅内において自動スリープ』に変更しました」



 ミリはにっこりと微笑む。

 俺のトゲのある言い方なんて気にも留めていない。

 部屋の隅の充電ターミナルへ向かうと、ミリはその手をホルダーに重ねた。

 プロジェクターがスリープモードになり、ミリの身体が消えていく。

 

 ……まるで、俺の心が消されていくのを見届けてるみたいだ……。


 充電ターミナルに置かれた小さなプロジェクター。

 その土星みたいな形を俺はしばらく見つめていた。

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