限りなく無に近い彼女は俺の夢を見ない

#26 幼馴染み

　イケウチが来てから、ユウキの雰囲気はがらりと変わった。

　言葉少なで、冷静で、大人びた。

　イケウチに似ている。

　そうだ、今まで何回も見せられたようにイケウチに合わせてるんだ、そう思った。

　でも、何か（・・）違った（・・・）。

　イケウチはユウキの後ろの席に座ろうとして、ユウキに止められる。

　話しづらいから前の席に座れって言ってた。

　それもそうだなって思ったけど、前に座ったら座ったでイケウチが話しづらいと思う。

　それに、話しづらい（・・・・・）って、多分嘘だ。

　イケウチの紹介や、イケウチを含めた雑談に身構えた俺は肩透かしを食らう。

　今までみたいには話が始まらない。

　近くに座っているのに、まるで見知らぬ他人だ。

　いや。

　他人というより、「いない（・・・）」

　空気みたいな……

　頭の中の俺は強く首を振った。

　イケウチが一人だからなのかも知れないし。

　イケウチとはこーゆー時間の過ごし方なのかも知れない。

　確か、「会話の要らない仲」って表現もあると思った。

　幼馴染みで友達ってことは、今までの中でも一番近い間柄だから。

　授業が始まってからも、ほとんど会話はない。

　ヴァーチャル教師に促されて、一言二言交わしただけだ。

　それらしい説明を求めて勝手に走る思考とは裏腹に、違和感は消えなかった。

　イケウチの方も、一見するとすごく親しそうなんだけど、なにか遠慮がある感じだ。

　幼馴染みって、こういうものなのか？

　俺には幼馴染みなんていないから、勝手にドキドキした。

　独特の空気感の二人を見ていると、「サクマグループの御曹司」というのは想像以上に大変そうだと思った。

　イケウチ（・・・・）用の（・・）サクマユウキ（・・・・・・）は俺に対しても素っ気ない人間（やつ）みたいで、イケウチが来てからほとんど口を開かなかった。

　俺の口も閉じたままだ。

　時間だけが過ぎる。

　ユウキと話したいことはいっぱいあるような気がしてたのに。

　ユウキは一体いくつの顔を使い分けているんだろう。

　途中で分からなくなったりはしないのか。

　俺は傍観者になって、観察していた。

　多分、他にすることがなかったからだ。

　授業が終わって、ユウキは軽く挨拶をするとイケウチと共に教室を出ていった。

　今日一日の濃さには不釣り合いな、あっさりした別れだった。

　だいぶ拍子抜けしていると、机の上のタブレットにメッセージが着信する。

『　サクマユウキ　「観察しすぎ！」　』

　ぶはっっ！！

　ヤバっ、一人なのに吹き出したっ！

　慌てて周囲を見回す。

　幸い教室には誰も残っていなかった。

　危なかった……。

　早いとこ、家に帰ろう。

　ちょっと気恥ずかしさを感じなから、俺は荷物を片付けた。

　胸のあたりがじんわり温かい。

　多分、初めて、トモダチが出来た。