#25 トモダチ

 四限と五限、俺は静かな授業を終えた。

 顔を見たことある生徒は何人か見かけたけれど、会釈した人が数人いたくらいだった。

 ミリもいないし、そりゃあ少し寂しい。

 授業自体に不満はないのだけれど、なにか物足りない。

 たびたびユウキたちとの会話が頭に思い浮かぶ。

 五限が終わった時、俺は珍しくすぐに部屋を出て、六限の部屋へと向かっていた。

 人混みの中を。

 

 

「タドコロ!」

 

 

 教室の窓際の席からユウキが手を振っていた。

 俺はいそいそと向かい、隣の席に荷物を下ろした。

 

 

「さすが、ユウキは早いな。この授業の友達は?」

 

 

 教室内を見回しながら椅子に腰掛ける。

 そんな俺に、ユウキが上体を乗り出して囁いた。

 

 

「これから来ると思う、その前にさ、連絡先交換しよ。それとさ、今日放課後ひま? 遊び行かねぇ?」

 

「お、おぅ……」

 

 

 俺はまた心臓をバクバクさせながらタブレットを取り出して、IDコード交換の画面を開いた。

 

 初めてだっ、初めてのIDコード交換っっ、これでやるんだよな、合ってるよなっ?!

 

 

「なに? タドコロ、タブレットなの? スルーしないでちゃんと返事くれよなー?」

 

 

 慣れた素振りでユウキが手の甲をタブレットにかざすと、ピピッと電子音がした。

 ユウキはさっと手を戻して、確認している。

 タブレットには「IDコードを交換しました。追加されたIDコードを確認しますか?」の表示がされていた。俺は「後で確認する」を選択して、そそくさと画面を授業用に準備する。

 

 なんだろう、スゴい。

 ドキドキする。

 こんなにさらっと言ってさらっと交換しちゃうなんて、サクマユウキすごいっっ!!

 

 

「い、いつもはミリに……あ、3Dアシスタントに任せてるから。ユウキはエムラップなんだね」

 

「便利だよー、3Dアシスタントには敵わないと思うけど! タドコロは3Dアシスタント使ってるんだ。今日はどうしたんだよ」

 

「プロジェクターが壊れちゃって。今日、全部合同授業なのもそれでなんだ。だから、放課後は、ごめん。まっすぐ家に帰ることになってる」

 

「ちぇーっざぁーんねん。連絡するからさ、また今度遊ぼ?」

 

「うんっっ」

 

 

 その後、ユウキから手の甲に装着したエムラップを見せて貰っていた時だった。

 

 

「あ、きた」

 

 

 ユウキがドアの方を見て話を止めた。

 俺も振り返って見る。

 一人の男がドアを開けて教室へと入ってくるところだった。

 背が高く、スラリとしている。

 短く刈られた髪の下には、スッキリとした顔立ちがついていた。

 俺たちに、というかユウキに気づいて、軽く笑顔を見せた。

 

 

「はじめまして。ユウキの友達?」

 

 

 まっすぐ窓際に向かってきた彼は、俺の前で立ち止まり、声をかけてきた。

 涼しげな表情が、大人びて見える。

 

「あっ、う、うん」

 

「今日、友達になった!」

 

「俺はユウキの幼馴染みで友達、イケウチ。よろしく」

 

 

 目の前に手が出された。

 

 え。これって、えっと。

 

 

「お近づきに握手したいってさ」

 

 

 ユウキのアシストにめっちゃ感謝を目で訴える。

 ユウキは楽しそうに顔をくしゃっとさせた。

 俺は席を立ち上がって、恐る恐る手を前に出す。

 

 

「タドコロトオルですっ。よ、よろしくお願いします」

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る