#18 クールダウン

 二時限目は一時限目と違って、実に静かに授業が進んだ。

 ユウキはずっと無言で先生の説明を聞いている。

 これ・・も、「人を知る」経験の一部なんだろうか。

 俺はちらとユウキの横顔を伺うと、そのまま視線を先生へと戻し、授業に集中した。

 一緒に居る人間に合わせて、態度を変えてるんだろな……。

 その人間の好む環境を作れば、今の俺みたいに、居心地良く感じる。

 

 授業に集中出来ると、60分なんてあっという間だった。

 チャイムがなり、先生が退出する頃、俺は学習の充実感に満たされていた。

 

 

「結構密度濃かったな」

 

 

 タブレットをつつきながらユウキが口を開いた。

 

 

「タドコロ全部理解できた?」

 

「うん、たぶん。ユウキは?」

 

「俺は……授業内容は基本学習済みで再確認みたいなもんだから。今回は時間割を変更したせいで唐突な内容だったってゆーハンデがあったくらい」

 

「あぁ、そうなんだ。……素朴な疑問なんだけど、もう知ってることを教える授業に参加するのって、目的が違うにしても、時間が少し勿体なくない?」

 

「それはほら、授業がどうか・・・・・・じゃなくて、俺が何をするか・・・・・・・だから。勿体ない時間にしないよう、頑張るだけですわ」

 

 

 おお……

 なんか、ちょっと、かっけぇ。

 

 俺が惚けて見つめたせいか、ユウキは少し照れたようだった。

 

 

「授業の内容だけを考えたとしてもさ、タドコロだって予習や復習はするだろ? 一緒だよ」

 

「っはっそれもそうだね」

 

 

 照れ隠しの言い訳っぽさが面白くて、俺は吹き出してしまった。

「他の学生と一緒じゃなきゃ学べないことがあると思う」

 そうだね、ミリ。

 

 

「なんかその笑いムカつくンですけどーぉ」

 

 

 サクマユウキは『アタリ』だ。

 

 

「ごめんごめん、他意はなくて。ユウキと話すの、楽しくて」

 

「う゛っわっ、タドコロってそーゆーことサラッと言っちゃうタイプなわけ?」

 

「そうらしい」

 

「……手強ぇ」

 

「そんなこたぁない。次の授業への移動は、急がなくて良いの?」

 

「んー、タドコロ席にこだわりないみたいだし、いっかなって」

 

 

 机に頬杖なんてついちゃって、ユウキからは全然移動する気が見られない。

 俺が動くまで立たないつもりかな、なんて思う。

 

 俺はいつも・・・授業の後、部屋に残ってまったりする時間を作っている。

 人混みの中移動するのが苦手だから、他の人とタイミングをずらす意味もあるけど、一番の理由は授業の余韻に浸りたいからだ。

 授業に集中すればしただけ、クールダウンの時間が欲しい。

 だから今は、それを・・・邪魔され・・・・なくて・・・とても気分が良い。

 どこまで読ん・・でんだろ。

 

 授業の余韻が消えて失くなると、ユウキへの関心がどんどん頭の中に生まれてくる。

「動かす」なんて大それたことは到底考えないけれど、「人を知る」ということはこういう行為ことなのか、と胸が躍った。

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