#19 女の子

 ユウキは窓際の後ろの方の席が好きなの?

 そう聞こうと思った時だった。

 ユウキの席の机の前に、近づく人の姿を認めた。

 

 

「サクマさん」

 

 

 髪の長い女の子が二人。

 ――――女の子だっ。

 女の子がユウキに話しかけている。

 

 

「えぇ……と、ワキノさんと、オノさん……合ってる?」

 

「合ってます! すごいっ! 覚えてもらえてるなんて」

 

 

 さっきの授業を最前列で並んで受けていた二人だ。

 ユウキに名前を呼ばれて、わぁっと目を輝かせたかと思ったら、二人顔を見合わせたり、嬉しそうな笑顔をユウキに投げ掛けたりしながら、はしゃいでいる。

 

 

「部屋に入った時から気づいてたんですけど、覚えてないかなぁって、ね」

 

「声かけずに行くつもりだったんだけど、うちらがおしゃべりしてたらサクマさんもまだ部屋に残ってたから、ね。声かけて良かったです、この授業とるんですか?」

 

 

 なるほど、この女の子たちも「以前合同授業で声をかけられた」クチか。

 二人がユウキに好意的なのは見て明らかだったので、流石だなぁと俺は感心していた。

 

 

「いや、今日は友達に付き合ってたまたま参加しただけなんだ。こっちこそ、声かけてくれてありがとう。顔見た時に、モネの話したなぁって思い出したんだけど、ちょっと自信なくて」

 

「そうだったんだぁー」

 

「話したことまで覚えてて貰えたなんて感激!」

 

 

 女の子の一人が俺の方へちらりと視線を動かしたけれど、すぐにユウキへと戻した。

 それを確認したからか、ユウキが俺を紹介しだした。

 

 

「こちら、タドコロトオルさん。何回か合同授業を一緒に受けてる友達なんだ」

 

 

 こんにちは、と挨拶をされて返したものの、二人が俺に興味がないことは明らかだった。

 二人は名前すら名乗らず、ユウキへと顔を戻すと絵画展の話に花を咲かせ始めた。

 ……これは、次の授業へは一人で先に移動しておく流れかな?

 俺がそう思って鞄に手を伸ばしかけた時だった。

 

 

「あ、そろそろ次の授業の部屋に移動しないとじゃないかな? また一緒になった時はよろしくね」

 

 

 ユウキが慌てるように立ち上がった。

 二人の女の子に爽やかな笑顔を送ると、退出を促すように俺の肩を叩いた。

 動くとなると、ほんとに早いやつ。

 既にドアを開けて部屋から出ようとしているユウキを、俺は慌てて追いかけた。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る