#12 合同授業
学校のロビーに着くと、回転ゲートを通過しながらチェックインをする。
右耳の後ろ、少し下のくぼんだところに埋め込まれているメモリチップが認識され、今日一日の授業計画と、それぞれの授業の部屋を含めた情報がスクリーン表示される。
今日はミリがいないし、この表示を見ながら自分で移動することになるだろう。
俺はスクリーンを消さずに表示したまま、最初の授業の部屋へ向かった。
部屋のドアには、授業用のチェックインディスプレイが付いている。
ドアに手をかけようと近寄った時だった。
「あっれー?」
明るい声に振り向くと、見たことのある青年がこちらに笑顔を向けていた。
人懐こい顔から言葉が続けられる。
「えぇと、確か……タドコロ?」
自分の名前を当てられて、俺は少し感心した。
まさか、覚えているとは。
俺は、思わずこぼれた笑顔のまま返事をする。
「タドコロトオル。前にも、合同授業で一緒になったことあったよね。おはよう」
「おはよう! うん、結構前だけど、2回くらい相席した記憶がある! 前にも、ってことは、今日も? この部屋?」
「うん、そうなんだ。よろしく。ごめん、俺は名前覚えてなくて」
「あぁ、全然! 俺はサクマ。サクマユウキ。とりあえず、
サクマに促されて、ドアのディスプレイにチェックインコードを入力する。
続いてコード入力したサクマと二人、部屋の中へと進んだ。
「窓際の後ろの方に座んね?」
サクマはなんの躊躇もなくそう言った。
……合同授業慣れしてるのかな、そう頭によぎった俺に、サクマはニカッと笑った。
「今日はさ、俺、タドコロに覚えてもらおうと思って!」
「オッケー。合同授業久しぶりだから、助かるよ」
――今日は幸先がいいかな。
俺はなんとなく、窓の景色を眺めながらそう思った。
サクマに連れられて座った席は、窓際の一つ隣の席で、窓の外が見える。
授業の部屋で、窓から景色が見えるところは少ない、と思う。
だからなのか、目が自然と窓へと向いていた。
へぇ……学校にもあんな並木があるんだ。
深緑の葉がテキスタイルデザインみたいだ。
窓の外の世界に、自分ごと吸い込まれるように思考を奪われていた。
「窓際良いよな」
かけられた声に意識を引き戻されて、窓の外から中へ視線を移した。
サクマを見ると、光を受けた髪が茶色く透けて輝いていた。
「あぁ、悪くないね」
「俺さ、ほとんど合同授業を受けてるんだ。同じような奴でクラスメイト? みたいな奴も出来てさ。この授業だとオオヌキって奴とハカマダって奴がもうすぐ来るはず。もともと合いそうな奴と相席組まされてるんだろうけど、気が合う奴との合同授業って楽しいんだよね」
「合同授業がメインってスゴいな。俺はほとんど個人。合同じゃなきゃならない時だけ仕方なく合同受けてるって感じ」
「あーなるほど! そういや、前に一緒になった時はワークショップ系の授業だったっけ。俺、タドコロとも気が合いそうだなって思ったんで名前覚えてたんだ」
「そうだったんだ」
「今日はどうした? この授業、個人も普通にあるだろ?」
「今日は……ちょっと訳があって。全部合同授業なんだ」
「まぢか?! えー! タドコロの時間割教えて?」
「いいよ」
確かにサクマとは話しやすい。
合同授業で相席出来るのなら、それも良いかな、と思った。
二人で時間割を見比べているところへ、噂の二人が登場した。
「はよっ! 何? ユウキ、お前またナンパしてんの~?」
「思ったことをすぐ口から出すなよ……。おはよう、ユウキ、とユウキの友達?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます