#11 朝

 寝惚けた頭に目覚めの曲が流れてくる。

 大きく揺れているベッドの上で身を起こし、二、三度軽く頭を振った。

 

 あぁ……、今日は覚醒が重い……。 

 昨日寝たのが遅くなってしまったからかな。

 それか、熟睡出来なかったか。

 

 ベッドの揺れが止まるのに合わせて、徐々に部屋に光が差し込む。

 朝の白い光。

 俺はベッドから下りるとまっすぐシャワーブースへ進む。

 パパッと裸になって、ブースの扉を閉めると、朝のリフレッシュボタンを押す。

 シャワワーッと細かい温水がブースに注がれていく。

 壁から伸びているエア・レギュレーターを咥え、みるみるブースを満たしていく温水に身体を沈める。

 俺はいつものように、壁面の画面に表示されるニュースや情報に目を通しながら、サブ画面に表示されているストレッチメニューをこなしていく。

 20分ほど、ストレッチメニューがやり終わる頃には温水が排出される。

 ドアを開けて、ふわっふわのタオルで全身の水気を取ると、俺はまたブースの扉を閉めて、またボタンを押す。ボディ・コンディショニングミストを全身に浴びると、手で肌に馴染ませながらブースを出た。

 今は髪が短いから、しっかりめにタオルドライするだけで乾く。

 サッサと着替えを済ましパソコンの前に立つと、画面の中に控えていたミリがにっこり微笑んだ。

 

「おはよう」

 

「おはよう、トオル。今日の時間割は組めてるよ。学校の方にも転送してOKが貰えているから、トオルはチェックインだけして授業を受けてね」

 

「分かった。説明はいいから、俺にも・・・転送して」

 

 

 俺はデスク脇の鞄を手に取ると、部屋を出るべくドアへ向かった。

 

 

「りょーかい。他には、何かある?」

 

 

 ドアを開けてから、もう一度、パソコンの画面の方へ振り向く。

 ミリはいつものように、にこにこと俺に笑顔を向けていた。

 

 

「……特にない。行ってくるよ……ありがと」

 

「いってらっしゃい、トオル」

 

 

 パタンッと部屋のドアは閉じられた。

 

 

 **

 

 

 リビングにはもう父さんと母さんが起きていて、朝食を食べていた。

 

 

「おはよう、トオル」

 

「おはよう」

 

「おはよう、トオル。飲み物は自分で冷蔵庫から出してね」

 

「おはよう、母さん。うん」

 

 

 俺は朝は無調整牛乳派だ。

 冷蔵庫から牛乳を出してグラスに注ぐと、再び冷蔵庫にしまう。

 グラスを持って食卓に加わる。

 

 

「今朝はパンなの」

 

 

 母さんがトーストしたばかりのパンをお皿にのせてくれた。

 コーヒーを飲んでいた父さんは、手元にあったバターやバターナイフを差し出した。

 

 

「トオル、プロジェクターのことだけど、どうする?」

 

「これ、母さんのだけど、使う?」

 

 

 テーブルの上に、プロジェクターが一つ置かれていた。

 

 

「あぁ、ありがとう。でも、いいや」

 

 

 俺はパンにバターを塗りながら答える。

 

 

「考えてみたら、一日くらいプロジェクターなしの日があるのもいいかなって。今日は合同授業で時間割組んで貰ったし。ポートを使って寄り道しないで帰ってくるよ」

 

「そうか、気を付けてな」

 

 

 そう笑いかけながら父さんは皿を手に席を立った。

 食洗機に食器を片付けながら「今日は少し遅くなると思う」と主に母さんに向けて言っていた。

 それから身支度を済ますと、「お先に」と一足先に出勤して行った。

 

 

「良いのね? 使わないならしまっちゃうけど」

 

「うん。ありがと」

 

「今日は私が戸締りしていくから、トオル先に出なさい」

 

「あぁ、そっか。ありがとう、時間は大丈夫?」

 

「遅出にしたから大丈夫よ」

 

 

 その日、俺は久しぶりに母さんに見送られて家を出た。

 そういや、ミリにも見送られたんだったな。

 母さんの「いってらっしゃい」を聞きながらそんなことを考えた。

 

 

「いってきます」

 

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