#13 クラスメイト

「おはよー! こちら、タドコロトオルさん。合同授業で二回一緒になったことあって、今日たまたまの三回目でさ。オオヌキ風に言うと、今口説いてるとこ!」

 

「出たよ、プレイボーイ・サクマユウキ。お前何人落とすつもりなんだよ」

 

「プレイボーイは少し誤用なんじゃない? 初めまして、タドコロさん。俺はハカマダトシユキ。ユウキに誘われて週三でクラスメイトをしてます。よろしく」

 

 

 長めの前髪を下ろした青年が俺の前の席に腰掛けながら会釈をした。

 

 

「どの辺が誤用? 合同授業出まくって、気になったやつ声かけまくってる遊び人、ドンピシャじゃん。ユウキ、キープしてる『友達』何人いんの?」

 

 

 まるで辞書と話しているかのような、独特の語彙を多用するノリのよさそうな青年、多分消去法で『オオヌキ』だ、はサクマユウキの前の席に後ろを向いて座った。

 俺のことはあまり興味がないらしい。

 登場してからほとんどサクマ、時折ハカマダとだけ目線が動く。

 

 

「数えたことないから分かんねぇ。でも、数えるの面倒くさいくらいはいる」

 

「ほらな? 誤用じゃないじゃん」

 

「ユウキの社交性にはほんと感心する。でも、プレイボーイって女遊び限定なんじゃないの? ユウキの場合は友達だろ? 女の子もだけど、男もいるし」

 

「そういう意味で使われることもあるけど、プレイボーイってのは多才でお金と時間に不自由しない遊び人のことなんだよ。自分の好きなことを粋に楽しむ姿が魅力的なモテ男、ユウキにピッタリじゃん」

 

「すげー誉められてるかな? オオヌキは誤解を招きそうな言い方好きだからなぁ。タドコロ、こいつ、この自由人はオオヌキダイスケ。どこで仕入れてくるんだっていう語彙力変態なんだけど、慣れるとただ面白いやつ。何言ってるか意味分かんなかった時はこっそり俺に聞いて、俺も分かんないかもだけど!」

 

 

 アハハッと軽快な笑い声が部屋に広がる。

 やっぱりサクマとは話しやすい。

 ハカマダの自己紹介&よろしく、に返事しこたえようと思ってから、タイミングを失っていた俺に救助ロープが投げられた。

 サクマがオオヌキの紹介をしてくれたことでタイミングが戻ってきたのだ。

 タイミングを奪われてから、愛想笑いが貼り付いていた俺の顔をオオヌキがチラッと見る。

 この際、よろしく、一言でもいい。

 挨拶さえしてしまえば、初対面の礼儀は払える。

 口を開きかけた俺の耳に強烈な言葉が聞こえた。

 

 

「変態って言ったな、親父にも言われたことないのに。このオナニーイケメン」

 

 

 すぐにユウキに目を戻したオオヌキがニヤッと笑いながら言う。

 

 

「うわ、なんかすげーこと言われてる。どういう流れだよ。でも一応誉められてるのかな」

 

「プレイボーイ、イコール自分の快楽を追求する魅力的な男、イコールオナニーイケメン」

 

「オオヌキ、初対面から自由過ぎだよ。さすがにタドコロさん引いてるよ……。ユウキも誉められてるかとかいないとか、そういうとこじゃないと思うんだけど」

 

「褒め言葉だよ」

 

「いつもサンキュー」

 

 

 俺は固まった愛想笑いが、再び強固に顔に貼り付くのを感じた。

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