#4 消えた彼女

 アートショップで試聴しまくって、ライブ一個体験して、その後行きつけのセレクトショップでシャツを二枚買った。服は特に買う気はなかったんだけど、ミリが似合うってオススメしてくるから、あの笑顔に負けた。まぁ、2Buy1Offだから、大した出費にはならないし、むしろお得だった。ミリのやつ、全部知ってて仕組んだな、やり手め。

 

「今日食べたTOAST BAR、評判通り美味しかったね!」

 

「そとみコンガリさくさく、なかみフンワリしっとりね。ホットサンドってバラバラして食べにくいのが嫌だったけど、ちくわ形のバーにするとか考えたよなぁ」

 

「テイクアウトしやすいしね! また食べよう! メニュー豊富だし、制覇するまで飽きなさそう」

 

「なんだかんだ俺は同じの頼みそうだけどね~」

 

「トオル冒険しないよね~」

 

「またそれゆー。冒険しないとか失敗が嫌で避けてるとかじゃなくてさ、なんてゆーか、安心を好んでるんだよ、最高だって知ってるいつもの……」

 

 そこまで言ってまたドキリとする。

 別におかしいことじゃないだろ、これから言おうとすることは。

 止まったら逆になんだろう? って思うだろ! 止まるなよ、俺ぇっっ

 ミリを見ると、にこにこと俺の言葉を待っている。

 

 駅ポートからの帰り道、ミリと俺は並んで歩いていた。

 手は繋がずに。

 だいぶ遊び回って疲れたはずだから、繋いだ方がお互いに安心だとは分かってた。

 でも、なんだか気が引けて、ミリから「どうする?」て聞かれた時、断ってしまった。

 別に問題はない。

 断ることなんて何度だってあるし。お互いいちいち気にしてない。

 ……なのに。

 

「なんで今日はこんなに気まずいんだよ……っっ」

 

 つい感情が口から出てしまったことに気がついて、俺はミリを見る。

 ミリは俺を茫然と見ている。

 

「あ、今のはっっ」

 

 慌てて取り繕うとして気づく。

 違う、ミリが見ているのは。

 俺がミリの目線を追い振り返るより早く、ミリは俺を後ろに突き飛ばし、前へ飛び出した。

 突き飛ばされながら見えた視界を俺は何度も拒否した。

 けれど、変わらない現実だった。

 こちらに向かって暴走してくる大型輸送車にぶつかっていくミリ。

 

「ミリッッっ!!!! ミリィィーーーーーーッッッ!!!!」

  

 大型輸送車は、俺がいるのとは反対側の道路から飛び出して、横転して止まった。

 ミリにぶつかって進路が変わったんだ。

 ミリが俺を助けた。

 駆け寄った俺にミリが微笑む。

 

「……トオル、ケガは……? ケガ……して……ない……?」

 

「してないよっっしてるのはミリの方だろっ!! こんな……こんな時にも俺の心配なんかして……っ」

 

「良かった……」

 

「全然良くないよっっ」 

 

「……トオル……って……おかし…………わた……し……は、だい……じ……ぉぶ……だ……か……」

 

 大型輸送車とぶつかった影響で、身体の一部を失って横たわっていたミリは、そう言い残して消えた。

 

 

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