【 知美 】

 次の日の朝、布団から体を起こすと、すぐにスマホで彼女のことを調べた。

 彼女は今、東京に暮らしているらしい。


 両親の食料品店が、悪いうわさにより閉店に追い込まれ、卒業式の数日後、逃げるようにして、引っ越してしまった。

 あの後、どんなことがあったのか想像もつかない。


 俺は知りたかった。

 あれからどうやって、ここまできたのかを。


 ――その後、俺は新聞社の人にコンタクトを取り、小学校の同級生ということで、何とか彼女のメールアドレスを聞き出すことができた。

 そして、思い切って彼女に一度会って話がしたいとメールをしてみる。

 すると、意外にも彼女は会ってもいいと返事をくれた。


 俺はすぐに東京へ戻ると、彼女の自宅がある近くのカフェで待ち合わせる。

 俺のことを覚えているだろうか。


 1階のカフェの窓から、事前に聞いていた服装の彼女が、この店に入って来るのが見えた。

 彼女は、入口を入ると、俺を探しているようだ。

 俺は椅子から立ち上がり、小さく手を上げる。


「あっ、知美ともみ……ちゃん。ここ……」


 一瞬、どう呼んだらいいのか迷って、思わず『』をつけた。

 彼女は、薄花色うすはないろの爽やかなワンピースに、ダークブラウンのロングヘアーで、俺に気付きニコッと笑ってこちらへ歩いてくる。


博之ヒロユキくん、だよね……?」

「あっ、うん。突然呼び出したりして、ごめん。座って……」


 照れくさそうに座る彼女は、小学校の時に見たあの知美とは、全くの別人のように見えた。

 白い肌に赤いルージュを引き、とても綺麗になっており、大人の女性へと変わっていた。


 あの当時、いじめを受けていたなんてとても思えないほど。


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