【 10年の重み 】

 深夜まで酒を呑んだ後、3人は別れ、俺は実家に泊まった。

 スマホでさっきの知美の記事を見る。


 そこに写っているのは、あの頃のいつも泣いていた知美ではなく、眩しいほどににっこりと笑っている彼女の姿だ。

 手には、彼女の書いた小説が見える。


 タイトルは、『ディスグラフィアの欠片かけらと共に』。

 どういう意味かはよく分からなかった。


 だが、確かに彼女は小説でこんなにも大きな賞を手にしている。

 字をまともに書けなかった彼女が……。

 どうして……。



 ――俺が会社を辞めた理由。

 それは、10年間ずっと書き続けてきた小説、小説家への憧れが捨て切れなかったから……。


 友達や両親が、こんなことを知ったら、やめとけって、相手にもされないだろう。

 だから、言えない。


 俺も俺なりに小説を沢山書き、10年間頑張ってきたつもりだった。

 でも、彼女は字も書けない状態から、今は作家デビューを果たしている。


 この差は、どこで起きてしまったんだろう。


 俺はベッドの上に寝転がりながら、天井をぼんやりと見つめ、小学校の頃の彼女のことをずっと思い返していた。


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