【 書くこと 】

「しかも、あいつ『ね』とか『ま』を反対に書いてたのに、小説で夕日新聞賞だってよ。すごくねぇか?」

「まじか……」


 俺は衝撃を受けた。

 それは、あの時とは全く違う、知美の綺麗な服を着た美しく変わっていた姿だけではない。

 俺がもっと驚いたのは、小学校の高学年になっても、字をまともに書けなかった彼女が、小説でこんなに大きな賞を取ったことが信じられなかったんだ。


 それがどんなに難しいことか自分が一番よく知っている。

 なぜならば、俺は中学からある小説投稿サイトで小説を書き続けている。しかし、そのサイトのコンテストで賞を取ったことすら一度もなかった。ましてや、こんなに大きな賞を取るということが、どんなに難しいことなのかを痛いほど分かっていたからだ。


 淳司や武英にも言っていないことがある。


 俺が1ヶ月で会社を辞めて、今、ここに来ているということを……。



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