第27話 7月5日、8日、

7月5日(火)


パパ、おはよう。

今日は会社行かないんだね。作業着と違う。


そっか、病院へ3ヶ月に一度の定期検診へ行くんだね。台風が上陸したみたいだけど、全然風吹いていないし、雨もちょこっとしか降ってないもんね。

気をつけて行ってらっしゃ〜い。玄関までお見送りするね。大丈夫、外には出ないから。そうあたいが言ってもスピカを見ながらドアの開け閉めするんだね。信用ないのね。


☆ ☆ ☆ ☆


おかえり。もう帰ってきたの、パパ。


++++++


なんか、パパとママが喧嘩してる。練習が中止になったとか、中止にしたとか。台風で休校になってるから、雨も風も無くても出来ないとか、出来るとか揉めてる。珍しいね。喧嘩するの。若い頃はもっと喧嘩ばかりしてたのか。言い合ってるね。ああ、もうやめて、スピカたちには分からない。夫婦喧嘩は犬も食わないと言うけど猫も食べません。アルク兄ちゃん、二階に行こう。今日は暑くないみたいだし。


++++++


 パパ出て行くのか? 行かないね。せっかく会社休んでるし、練習も中止になってるから『あたいはスピちゃん』更新しようと思ってるんだよね。パパ頑張れ。それが終わったら市役所に医療控除申請に行かないといけないんでしょ? 急げ、市役所は5時までなんでしょう? 以前は町の支所で出来たけど、本庁舎しか受け付けなくなったから会社休みの日しか行けなくなったんだよね。


パパが慌てて、書類整理して、着替えてる。もう仲直りしたの? まあ、収まってるみたいね。パパが新しい靴下履いて、慌てて滑ってる。大丈夫? 気をつけて。あたいは、しょっちゅう滑って尻餅つくけど、パパ転んだら骨折するよ。あたいの足が滑る感じ分かる? その靴下が滑る感じだよ。ねっ、後ろにも横にも前にも滑るでしょ? 肉球が役をしてないんだよね。なんでかな? パパも靴下に滑り止めが付いていればなって思ってるんでしよ?


パパ、昔、スケート出来てたから大丈夫だね。学生時代、女の子と手を繋いで滑った事もあるんだよね。スピカとも手を繋いで。

行ってらっしゃ〜い。


☆ ☆ ☆ ☆


「みゃ〜おん、みや〜ん」


アルク兄ちゃんが棚の上に登って、天井のクモに叫んでる。


「ダメって、アルちゃん、降りなさい。降りなさいって」


アルク兄ちゃんがダイブしておちてきたらたいへんなことになると、パパがアルク兄ちゃんに注意してる。


アルク兄ちゃん素直に従ってDVDプレーヤーの上に降りる。重みと勢いでフタが開く。


アルク兄ちゃん、お利口さんだけどちょっと体重オーバーね。まだまだダイエットだね。


++++++


「みゃ〜おん、みや〜ん」


またアルク兄ちゃんが登ってる。


「アルちゃん、コラ」


またちゃんと降りた。お利口さんね。


あっ、クモが2匹になって動いてる。


「ああ、クモが脱皮してたのか」



7月8日(金)


パパ、おはよう。朝からお風呂入るの?


アルク兄ちゃん、風呂場に入ってるじゃん。スピカも入っていい? 風呂のフタはあったかいんだよね。アルク兄ちゃんは、虫ハンターだから虫捜してるんだよね。スピカは、このブラインドの裏に入って遊そぼ。面白い。トンネルみたいで、金属の薄い板がカシャカシャ当たって気持ちいい。この前この板折り曲げて怒られたけど、まあ、いいや。


ガラガラ


あっ、パパ裸やん。いや〜ん。レディの前でなんてカッコしてんのよ。いや、今日は折り曲げてないから許して〜。


えっ、アルク兄ちゃん逃げちゃった。いや〜ん、スピカを、置いて逃げないで。


えっ、フタ取られたらあたいどうやって降りればいいの? 縁の上歩けるかな? 落ちそう。いや〜ん、パパ許して、もうしません。


えい、強行突破だ。あつ、ドアしまってるじゃん。開けて開けて、パパ。あっ、やっと出れた。アルク兄ちゃ〜ん、まて〜。


☆ ☆ ☆ ☆


パパ、おかえり。元首相の人、鉄砲で撃たれて死んじゃったんだって。


可哀想だね。なんで人間はそんな武器を使って人を殺しちゃうんだろうね。戦争で使ってるような高度な武器じゃなくても他人を殺せる物を作っちゃダメだよね。せいぜい猫の爪ぐらいにしとかないと。死んじゃったらみんな可哀想だよね。殺した人も一生苦しむと思う。

ああ、嫌だ、嫌だ。


えっ? パパ、黒服着てどこへ行くの葬儀は未だなんじゃない?


会社の元上司だった人が亡くなったのか。

パパも年だからね。その上司となるとやっぱり年だね。パパ悲しい? 仲良かったの? 


若い頃の上司だから色々反発してたし、あの頃の無礼を謝って来たって。息子さんや娘さんが立派に育ってらっしゃるから良かったんじゃないって。


そっか、反発してたのか。その上司の口癖は


『今日という日は、12時まであるもんのう(あるからね)』


だったんだって。今の世の中だったらアウトだね。パパ12時まで仕事してたの? 


してたのか。越えることはしょっちゅうだったって。だから倒れたのか? 無理してたんだね。もうしない。したくないとパパ、言ってる。そうさ、パパが倒れたらスピカたちのトイレ、誰が綺麗にするのさ。無理しちゃだめだよ。

行ってらつしゃ〜い。気をつけてね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る