第3話12月31日(大晦日)

12月31日(金)


パパ、大晦日って?

昔は、みんな実家に帰って家族で紅白歌合戦見たりしてたのが普通だったからパパたちも必ず帰ってたんだけど、いつからか、なかなか帰れなくなったって。

そう言えば、娘さんのお姉ちゃんもここの家に帰って来てないね。パパとママが実家に帰ってる間にお姉ちゃん帰ってきたらどうするの?

そっか、ルーク兄ちゃんとアルク兄ちゃん、スピカ、あたいたちが「お姉ちゃんお帰り」って言えばいいんじゃない? 

帰って来ないのか。今年も新型コロナがあるしね。なかなか行き来出来ないみたいね。パパとママもここの家に居るね。紅白歌合戦もここで見るんだ。全部見るわけじゃないんだよね? それでも今年は、この時間帯で大掃除は済んでるから良い方なんだって。何時も大掃除がまだ終わってないか、正月の飾りつけが終わってないから座って見られないって。正月もまだ喪中だから大した準備はしてないらしいんだけど。


パパ、スマホ見て何にんまりしてるの?


パパの昔のリハビリの先生から連絡来て「『だって117が可愛い過ぎる』一気に読みました。面白かったです」だって。

良かったね、パパ。この先生のこと好きだったんだよね。パパがまだ立つことも出来なくて、車椅子だったころからパパのこと鍛えてくれたんだよね。パパが車椅子にすっかり慣れて、爆走してた頃、車椅子を取らなきゃって、杖を持たせて無理矢理歩かせたんだって。パパとしては、夜中にトイレに行くのも杖で歩かないといけないから廊下に出て、トイレまで行くのも時間かかるし、オシッコ漏れないかと、とっても不安だったんだって。分かる、分かる。あたいもトイレまで行くの、まだ不安だし、トイレに登るのもたいへんだもん。時々漏らしそうになる。レディだからそう簡単に漏らす訳にはいかないしね。

でもこの先生は、厳しく車椅子を使っちゃダメと車椅子から卒業させてくれたんだって。今、歩けてるのは、ほとんど左半身を全然動かせてない頃からのこの先生のリハビリの指導、いざり(動かせる右手と右足だけを使ってはって移動する動作)や膝歩き(膝で立ってバランスを取りながら前に進む動作)や四つんばい歩き(手足4つをついて前に進むのだが、左手は伸ばせないので、実際には、三つんばいで前に進む動作)などマツト上の基礎トレーニングをみっちりさせてくれたおかげなんたって。この先生と出会う前までは、自分が誰にも支えられずに立っていられることさえも想像出来なかったって。だって、最初はベッドの上に座っておくことも出来ずにベッドの下まで転げ落ちたこともあるんだって。その先生から小説褒められたら嬉しいね。


ええっ、女の先生なの? しかも若い。だからにんまりしてたのか。


その先生、今年、結婚してたんだって。新型コロナになって、病院へ顔を出すことも出来なくなってて会えなくなってたら、いつの間にか結婚してたって。

パパ、がっかりしてるの? 好きだったんでしょ? でもダメ。若い人は、結婚するし、祝福しなきゃ。パパにはママがいるし、スピカ、あたいもいるでしょ。

この先生、パパの唯一の長編小説『つかさ』も読んでくれたんだよね。それももっと若いつかさにパパが惚れて、メキシコまで行っちゃうという話なんだよね。だからダメだって。若い子に惚れちゃ。その『つかさ』カクヨムで読めるの?

まだなのか。どっかの文学賞に応募しようと企んでるんだね。まあ、頑張って。あたいは読めない。しかもそんな長いの無理。


ああ、紅白歌合戦終わったみたいよ。


年越しそば食べるの?


どん兵衛の鴨そばか。それ美味しいの? 今年はざっとモードでそれにしたんだね。

あたいは食べられないから寝よ、寝よ。兄ちゃんたちも寝よう。2022年、令和4年になるんだって。パパ、ママ良い年を。


あたいを救ってくれてありがとう。

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