拓也から手を引く条件
「魂…」
茫然と呟く実の言葉を、彼は当然のように肯定した。
「そのとおり。これは、私が今までに集めてきた魂だ。昔は私が見えた人間も多かった故、魂集めもそこそこ愉快だったのだがな。最近では、私を見る人間はほとんどいない。魂を狩るのに手応えもなく、ちょうど飽き飽きしていたところだったのだよ。」
壁に並ぶ魂の数は、もう計り知ることもできないほど。
彼はずっとこうして、気まぐれに魂を狩ってきたのだろう。
実は地面を見下ろす。
そこには、まだ空っぽのかごが一つ。
―――このかごは、つまり……
「さて、人の子よ。」
彼が口を開いたと同時に、壁の明かりが消えた。
実は下ろしていた視線を上げ、まっすぐに彼を見据える。
こんな光景を見せられても、逃げ出そうとはしない実。
それを見て満足そうな笑顔を浮かべる彼は、まさに死神を彷彿とさせる、不気味な雰囲気を
「あの者に目をつけたのは、正解だったかもしれんな。なんとなく、あの者に揺さぶりをかけてみれば、面白いことが起こるかもしれないと思ったが……よもやこうして、私を視認する者が再び現れるとは。なかなかに楽しいことになった。」
「……それは、拓也から手を引く気はないってことか?」
実はきつく眉を寄せて死神を睨んだ。
そんな実の反応に、彼はくすくすと笑い始める。
「誰も、そうとは言っておらんだろう? ただ、まだ何も面白いことが起こっていないのに、素直に手を引くのは少々つまらんのだ。それに、あの者の魂もかなりの上物でな。無条件に手放すのは惜しい。あの者から手を引いてほしければ、その分私を楽しませてくれ。」
「楽しませる?」
「そうだ。確かにあの者に目をつけはしたが、私はあの者の運命に、死を招くきっかけを作ったに過ぎない。今後のあの者の運命は、まだあの者の判断と行動に
「……内容は?」
油断ならない彼の物言い。
絶対に、ろくなことを考えちゃいない。
警戒態勢を崩さないまま低く問うと、死神はまた小さく噴き出す。
いちいちこちらの反応を面白がるところは、不愉快極まりないがレティルにそっくりである。
「お主は、本当にいい返答をしてくれるな。気に入ったぞ。」
彼の言葉に、実は思わず嫌悪感を
「嬉しくない。そんな好意いらないから、さっさと先を続けてくれ。」
これ以上、神様という
にべもなく言い捨てた実に、死神は数秒きょとんとして、次に盛大に笑い出した。
「はははっ。私相手にそんなことを言ったのは、お主が初めてだ。……なるほど。どうやら、この手の厄介事には慣れていると見える。」
「………っ」
もはや言葉を返すことすら嫌になり、実は彼を全力で睨むにとどめた。
「分かった。話を続けよう。」
彼は楽しげに言って、一つ咳払いをした。
「私が手を加えれば、あの者の運命を死に固定することはできる。しかし私は、これ以上あの者に手を加えないと約束しよう。あの者がこの先、死ぬか生きるか。それを賭けて遊ぶのだ。ただ現段階では、あの者の運命は限りなく死に近づいておる。このままでは、お主に不利であろうな。ふむ……では、彼が死なぬように、それとなく干渉することはよしとしよう。私の存在を気取られぬようにしつつ、あの者を死の淵から救い出してみるがいい。もしも努力のかいなく、あの者が死ぬことになるのなら―――」
それは拓也だけではなく、こちらをも捉えていた。
フードに隠れた翡翠色の瞳が
フードを介しても、痛いほどに感じられる視線。
分かった。
彼が何を言わんとしているのか。
実の予想は的中する。
「―――その時には、お主の魂も一緒に狩らせてもらうぞ。」
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