死神と戦ってきた家系

 説明は至って簡単だ。



 拓也に死神らしきものがいているのを見て、なんとか死神に接触しようとした。

 その結果死神と対面し、とあるゲームを持ちかけられたのだ。





「―――で、そのゲームとやらを受けちゃったのか!?」





 紫苑が机に身を乗り出した。



「うん、まあ……そういうこと、ですけど……」



 実は歯切れ悪くそう答える。



 あの後実は、蓮と紫苑、そして尚希の三人に事情説明を求められた。



 もちろん、ゲームのことを話すのには少し迷いがあった。

 とはいえ、拓也以外の人間にゲームのことを話すなという条件はなかったはず。



 何より圧力全開の蓮と尚希に押し負けて、開きたがらない重い口を開いた実であった。



 自分が話している間、三人はこちらから目を離すことなく、話に耳を傾けていた。

 誰一人として、微動だにしない。



 そして、ひと通り事の顛末てんまつを語り終えた後の反応が、紫苑のこの言葉だったのだ。



「そのゲームを受けた結果、刻印をされたんですね?」

「はい…」



 実が蓮の言葉に頷いた時、尚希が我慢の限界というように実の両肩をがっしりと掴んだ。



「この馬鹿!! なんで、そんな勝手なことをしたんだ!?」



 怒鳴る尚希の目には、明らかな非難の色が浮かんでいる。



「なんでって……仕方ないでしょう! 拓也の命が懸かってるんですよ!?」



 尚希に向けられる視線に神経を逆なでされて、実は思わず怒鳴り返していた。



「断れば、すぐにでも拓也の魂を取られてました。一刻の猶予もなかったんです。拓也の命を捨てて、ゲームを断ればよかったって言うんですか!?」



 もしもあの場で自分がゲームを拒めば、下手すればもう拓也は死んでいたかもしれない。



 誰の助言も得られないあの場で、拓也の可能性の生か絶対の死かを選ばされたのだ。

 誰が好んで、友人の死を選ぶというのか。



 あの時の自分の立場に尚希が立たされたなら、彼だって絶対に自分と同じ選択をしただろう。

 尚希には、こちらを責められないはずだ。



 尚希もそれを分かっているのだろう。

 悔しげに唇を噛み締めた彼は、それ以上罵声を浴びせることはしなかった。



「今は、悔いても仕方ないですね。」



 蓮は溜め息混じりにそう言って、机の下からあらかじめ持ってきていた巻物を取り出した。



 遥かな年代を感じさせる古い巻物だ。

 巻物を机の上に置き、蓮はそれを広げた。



「あっ」



 実と尚希が声をあげる。



 その巻物には、実の胸に刻まれた刻印と全く同じ紋様が描かれていた。



「僕たちの家は、古くからこの死神と戦ってきました。天命による死で還る命ではなく、まだ生きるべき輝きを宿した命をこの死神は好みます。死神による被害に対抗するために立ち上がった術者たちの家系……その一つが、この九条家です。」



 なるほど。

 だから、死神祓いという単語がネットに書かれたわけか。



 蓮の説明を聞いて納得すると同時に、自分の引きのよさに感心してしまった。



「最近では噂も聞かなくなりましたが、最盛期には一日に何人もの人が、死神祓いのためにここを訪れていたそうです。先祖の目的はその死神の滅却でしたが、人々が死神を強く信仰してひどく恐れていた時代では、巨大な力を持つ死神を相手に最終的な目的は叶いませんでした。」



 始めに言われたのは、なかなかに厳しい結果。

 しかし、落胆しかけた実たちを否定するように、蓮がそこで首を横に振る。



「しかし、長い歳月の中で、この刻印を消す儀式を生み出すことには成功しています。本来なら、実君にもその儀式を受けてもらいたいところですが、この儀式は今のところ僕の父にしかできない上に、お友達の命が懸かっているのであれば、強制はできません。」



 蓮は淡々とそう述べた。



「こちらに訪ねてきたのも何かの縁でしょう。できうる限りの協力をします。」



 蓮の手がパーカーのポケットに入る。

 そこから出てきたのは、墨で文字や記号が書かれた何枚かの古びた紙だ。



「ここで使っている護符です。何かあった時に使ってください。随分昔のものだし、あなたたちからすると、気休めのようにしか感じないかもしれません。ですが、持っていた方がいいかと思います。それと、何かあった時のために、連絡先を教えてもらえますか?」



 その後お互いの連絡先を交換し合って、この日は帰ることになった。



 護符は、ありがたくもらっておくことにした。



 何があるかは分からないし、相手が地球由来なので、どこまでアズバドルの力が通じるかも予想できなかったからだ。



 情報としては大した収穫はなかったが、緊急時に頼るところが見つかったのは大きな結果だろう。

 少なくともこの時、実と尚希はこの進展に心なしか安堵していた。





 しかし……




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