第3章 ゲーム
募る嫌な予感
その夜、拓也は自分の勉強机に座っていた。
明日は受験に向けての実力テストがあるらしい。
今日はそれに備えて、これまでの授業内容を軽く復習しようと考えていた。
実が教えてくれたかいがあって、今までの勉強はそれなりについていくことができた。
春にはかなりの不安があった国語も、自分の読書好きが功を奏してか、中学の範囲までなら楽々と理解することができるようになっている。
『さすがは〝知恵の園〟の人間。理解力と吸収の速さは、一般を遥かに上回るよね。』
実がそう呟いていたことを思い出し、拓也はふと笑みを零した。
(なんだかんだいって、実って
実が肝心なところで冷たい態度を取るのはいつものことだが、それは優しさの裏返しだということは、体感としても香りとしても感じ取っている。
他人が自分に関わって危険な目に遭わないように、実は必要以上他人に近寄らない。
なんとも不器用な優しさだ。
でも、素直に優しさを示せば、当然ながら人は近寄ってこようとするわけで……
自分だって実が優しいのを知っているから余計に放っておけないわけだし、そもそも人間とはそういう生き物なのだろう。
だから実は静かな威圧とにべもない態度で、できるだけ他人を近づけないようにしている。
もしかすると実際のところは、自分たちのようにいくら突き放してもしがみついてくる人間がいるから、それに対処するので精一杯なだけなのかもしれないが……
そこは、実の心の内といったところだろう。
拓也は眺めていたノートのページをめくる。
赤と黒の文字だけが、几帳面に並ぶシンプルなノート。
そんなすっきりとした紙面を見つめ、ふとした拍子に息をつく。
やはりどうしても、今朝の実の様子が気になってしまう。
実は、本当に何かを見間違えただけなのだろうか。
一度は違和感を流したものの、思い返せば思い返すほど、今朝の驚きようは度が過ぎたように思える。
ざわざわと、胸騒ぎが意識を支配する。
どうしてだろう。
何もないはずなのに、とてつもなく嫌な予感がする。
そんな拓也の不安など歯牙にもかけないというように、時間は流れ、また朝が来る―――
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