第二十一話 到達/出立
帰宅後、ほどなくしてレイのバースデーパーティーは開始と相成った。テーブルには見たこともないほど豪勢な食事の数々が並び、それらを囲む家族は私を含め、皆笑顔だ。
「「「レイ、誕生日おめでとう!」」」
「うん! みんなありがとうっ!!」
卓の中心には噂に聞いていたバースデーケーキ。実物を見るのは初めてだが、知識として存在自体は知っていた。父母と私の声に合わせて、レイがふぅっと息を吹きかけ、瞬時にロウソクの火が消える。儚く、しかしそれ以上に、美しい光景だ。
「はい、レイちゃん! お母さんからのプレゼントはクマのぬいぐるみよ!!」
「お父さんからのプレゼントは指輪だぞ~。はっはっは! 女の子は早いうちからオシャレして損は無いからな!!」
「わーい! おかあさん、おとうさん、ありがとう!!」
やはり愛おしい時間ほど体感速度は速いのだろうか。パーティーはつつがなく進んでいく。食事を一通り終えると、家族からのプレゼントタイムが訪れた。
「え、えっと。一緒に買いに行ったから分かってるとは思うけど、私からはカメラね。写真、いっぱい取れるといいね」
「うん! みんなといっぱい写真撮る! ありがとね、おねぇちゃん!!」
無論、私も両親に倣って妹にプレゼントを手渡した。
何気ない行為のはずなのに、やけに照れくさくて。けれどまったく、イヤな感覚では無かった。
「レイちゃん、良かったね! 本当におめでとう!!」
「はっはっは! これからレイはきっと、どんどん美人に育っていくぞぉ。なんてったって、お母さんもお姉ちゃんも美人さんだからな!!」
「ふふっ、そうだね! ふたりとも、すっごくキレイだもんね!!」
あはははは。
うふふふふ。
えへへへへ。
みんな、みんな、はち切れんばかりの笑顔。幸せの絶頂とはまさに、この光景を指して言うのだろう。華やか過ぎて、満たされ過ぎて。かえって不安になってしまうくらいの幸福だ。
──なぜなら。絶頂とはすなわち、その後は転落という道しか残されていないのだから。
そんな風に、考えてしまうのは。空っぽに慣れ過ぎていて、幸せに慣れ過ぎていない、私の酔狂ゆえだろうか。
「ねぇねぇ、おねぇちゃんおねぇちゃん!!」
泣きそうになるほどの幸福の中、妹が私に声をかける。
「ん? どうしたの?」
鮮やかなリボンで飾られたプレゼントを両手いっぱいに抱える彼女を見やりつつ、震える声で私は応じた。嬉しいのか、怖いのか。今の気持ちが、自分でもよく分からなかった。
「このカメラの一枚目はお外で、みんなで撮った写真にしよっ?」
けれど、その心を見ないフリをして。
私は家族と共に夜の公園に向かった。
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